No.1027 ウシの空腸

動衛研つくば・広島県西部家保


[動物]ウシ,ホルスタイン,雌,8 歳.
[臨床事項]妊娠 3 カ月時に,突然,食欲不振,皮膚温度の低下,第一胃運動の停止,沈鬱,重度の脱水,腹部膨満が認められた.
[肉眼所見]右膁部切開開腹手術時に,長さ約 50 cm の空腸重積が認められた.腸重積起始部粘膜には,腫瘤(直径 25 および 10 mm)(図 1)が認められた.腫瘤と腸重積部分は外科的に摘出された.この病変は境界明瞭で,その割面には,さらに小さい腫瘤(直径 8 mm)とともに,多発性の白黄色病巣が確認された.
[組織所見]空腸の粘膜固有層に多発性の肉芽腫(図 2)がみられ,類上皮細胞,多核巨細胞(図 3),マクロファージ,リンパ球,好中球の著しい浸潤と細胞崩壊産物が認められた.この病変には,多数の好銀性フィラメント状細菌(図 4 :グロコットメセナミン銀染色)が認められ,グラム陽性,PAS 陽性,非抗酸性,長さ 2~28 µm,直径 0.2~0.35 µm でまれに分岐し,分節を有していた.このフィラメント状細菌(accession number AB539875)と既知の細菌との塩基配列の相同性は非常に低かった(640 bp 比較,高いものでも 89.2 %).
[診断]ホルスタイン種雌牛における好銀性グラム陽性分節性フィラメント状細菌が関連した多病巣性肉芽腫性空腸炎
[考察]この好銀性グラム陽性分節性フィラメント状細菌がこの牛の多病巣性肉芽腫性空腸炎を引き起こしたと考えられた.さらにこの肉芽腫性腫瘤より二次的に腸重積が誘発されたと推察された.(芝原友幸)
[参考文献]
1)Ibaraki, Y., Shibahara, T., Kobayashi, H., Ito, N., Shinozuka, Y., Kasuya, K., Murakoshi, N., Chikuba, T. and Kubo, M. 2011. Multifocal granulomatous jejunitis associated with an argyrophilic gram-positive segmented filamentous bacterium in a Holstein cow. J Comp Pathol 145: 118-121.
2)Ogawa, K., Shibahara, T., Kobayashi, H., Kanazaki, M., Morishita, M., Kamikawa, M. and Kubo, M. 2010. Jejunal granuloma associated with an argyrophilic gram-negative non-segmented filamentous bacterium in a Holstein cow. J Comp Pathol 143: 52-56.