No.1031 イヌの甲状腺・副腎

三菱化学メディエンス


[動物]イヌ,ビーグル,雄,18 ヶ月齢.
[臨床事項]蒸留水をカテーテルにて 54 週間反復経口投与後に解剖した.飼育期間中の一般症状観察,解剖時の血液検査,血液生化学検査では異常は認められなかった.
[肉眼所見]ホルマリン固定後の副腎割面では,正常個体の副腎と比較して髄質領域の菲薄化が認められた(図 1).両側の副腎重量が同月齢動物の平均値より低値を示した(912 mg,平均値:1260 mg).
[組織所見]甲状腺では間質および濾胞へのリンパ球浸潤が認められ(図 3),リンパ濾胞形成も散見された(図 4).副腎では髄質領域が顕著に減少し(図 2),髄質細胞の減少と共にリンパ球主体の細胞浸潤が認められた(図 5).副腎のグリメリウス染色では,萎縮した髄質細胞が散見された(図 6 矢印).
[診断]リンパ球性甲状腺炎および副腎髄質の萎縮を伴うリンパ球性副腎髄質炎( Autoimmune polyendocrine syndrome(APS)を疑う)
[考察]イヌのリンパ球性甲状腺炎は,血清中の抗サイログロブリンや抗サイロペルオキシターゼ自己抗体価の上昇を示し,ヒトの橋本病に類似した自己免疫疾患と考えられている.本症例も,血清中の抗イヌサイログロブリン自己抗体価が高値(106.2 %)を示した.また,副腎髄質においても髄質細胞の減少とリンパ球浸潤が認められ,これらも自己免疫に起因した病変と考えた.ヒトにおいて,自己免疫機序により複数の内分泌器官にて炎症や萎縮性病変などの機能不全を呈する病態は APS に分類される.イヌでも,グレートピレネー犬に見られた副腎と甲状腺の萎縮を伴う下垂体炎と副腎炎が,ヒトの APS に類似した病変として報告されている.しかし,本症例では,副腎髄質に対する自己抗体の存在を証明できなかったため,診断名に APS を付けることに対して慎重論も出た.(友成由紀)
[参考文献]
Adissu, H.A., Hamel-Jolette, A., Foster, R.A. 2010. Lymphocytic adenohypophysitis and adrenalitis in a dog with adrenal and thyroid atrophy. Vet. Pathol. 47: 1082-1085.