No.1032 ヒツジの大脳

帯広畜産大学


[動物]ヒツジ,サフォーク,雌,49 日齢.
[臨床事項]2010 年 6 月 4 日早朝,突然起立不能に陥った.回旋性の眼振および後弓反張の神経症状を呈したため,安楽殺後,剖検を行った.
[参考事項]提出標本と同様の病変は,基底核,内包,後頭葉,中脳,小脳などにおいても,概ね両側対称性に認められている.同農場では,2010 年 6 月 2 日にも,52 日齢のヒツジ(サフォーク種,雌)が突然起立不能に陥り,数時間の経過で急死している.同例の病理検索では,程度は軽いものの,本例と同質の病変が確認されている.
[肉眼所見]視床部において,軽度の出血を伴う淡桃色化巣が両側対称性にみられた(図 1).その他の諸臓器に著変は認められなかった.
[組織所見]肉眼的に認められた淡桃色化巣に一致して淡明化巣が認められた(図 2).同部では,神経細胞の壊死および好中球浸潤が認められた(図 3).また血管周囲への血漿成分の漏出や出血像もみられた(図 4).淡明化巣周囲白質においては,膨化した軸索が集族する部位も認められた(図 5).大脳皮質においても,程度は軽度であったが,視床部と同様の病変が認められた.
[診断]大脳の多巣性壊死(巣状両側対称性脳軟化)
[考察]ヒツジでは,本例でみられたような病変および病変分布がみられる疾患として,巣状両側対称性脳軟化が知られている.本疾患は,Clostridium perfringens type D の産生するε毒素によるエンテロトキセミアが原因とされており,主に飼料を過食した子ヒツジに発生し,罹患ヒツジは急性ないし亜急性の経過で死亡する.また,中枢神経病変はε毒素が血行性に中枢神経系へ移行し,血管内皮細胞を障害することで起こるとされている.残念ながら,本例ではε毒素の関与について検討できておらず,上記診断名とした.(中川大輔・古林与志安)
[参考文献]
1) Finnie, J. W. 2003. Pathogenesis of brain damage produced in sheep by Clostridium perfringens type D epsilon toxin: a review. Aust. Vet. J., 81: 219-221.
2) Summers, B. A., Cummings, J. F., de Lahunta, A. 1995. Focal symmetrical encephalomalacia. pp. 269-270. In: Veterinary Neuropathology, Mosby-Year Book, St. Louis.
3) Uzal, F. A. and Songer, J. G. 2008. Diagnosis of Clostridium perfringens intestinal infections in sheep and goats. J. Vet. Diagn. Invest., 20: 253-265.