No.1036 ガチョウの腹腔内腫瘤

日生研


[動物]シナガチョウ,雄,年齢不明.
[臨床事項]ガチョウ血球を採取する目的で飼育されている数羽のガチョウのうちの 1 羽が平成 22 年 8 月に突然死亡した.このガチョウは平成 19 年 9 月に動物園から譲渡され飼育されていたものであり,死亡の前に特に異常な症状は見られていなかった.死因特定のため,病理解剖を実施した.
[剖検所見]両側の趾蹠に数個の結節形成を伴う趾瘤症が見られ,他には異常は無かった.開腹したところ,腹腔内に大小の腫瘤が多発しており,最大のものは直径約 15 cm の大型腫瘤であった(図 1).同腫瘤は,白色から黒色の大小結節からなり,割面は充実性で膿瘍が散在した(図 2).さらに腹膜及び腸間膜にも,直径約 1 cm〜1.5 cm の黒色の小〜中型腫瘤が散発していた.
[組織所見]腫瘍細胞は柵状増殖を特徴とし,腫瘤辺縁部(図 3)や腫瘤内部の間質結合織に隣接(図 4)して顕著に観察された.柵状配列した腫瘍細胞が隣接する間質結合織から離れ,一見管腔状に配列しているような増殖像も散見された.腫瘍細胞の柵状配列はセルトリ細胞腫に特徴的な増殖像によく類似し,オイルレッドOで染色される腫瘍細胞が観察されたこと(図 5;弱拡,図 6:強拡),免疫染色で S-100(図 7)と NSE(図 8)に陽性反応が観察されたことなどから,セルトリ細胞腫と診断された.なお,免疫染色ではサイトケラチンに陰性であり,ビメンチンについては染色に用いた抗体にガチョウに対する種交差性がなく,判定は出来なかった.
[診断]ガチョウの悪性セルトリ細胞腫(Malignant Sertoli cell tumor in a goose)
[考察] 腹腔内に播種していたこと,腫瘍細胞の異型度の強さ,分裂像も多く壊死性変化が目立つことなどから,悪性腫瘍と診断した.腫瘍の原発は精巣と考えられ,成書では鳥類での精巣腫瘍の分類は哺乳類での分類と大きな違いはないと記載されている.鳥類のセルトリ細胞腫は日本ウズラとセキセイインコで報告があるが,ニワトリでは発生は少ないとされており,ガチョウでの報告は調べた限り見つけられなかった. (上塚浩司)
[参考文献]
1) Barnes, H. J., Fletcher, O. J. and Abdul-Aziz, T. 2008. Reproductive System. pp.348-351. In: Avian Histopathology, 3rd ed. (Fletcher, O. J. ed.), American Association of Avian Pathologists, Florida.
2) Reece, R. L. 2008. Other Tumors of Unknown Etiology. pp.593-616. In: Diseases of Poultry, 12th Ed. (Saif, Y. M. ed.), Blackwell, Iowa.
3) Gorham, S. L. and Ottinger, M. A. 1986. Sertoli cell tumors in Japanese quail. Avian Dis. 30: 337-339.