No.1038 ラットの頚腹部腫瘤

残農研


[動物]ラット,Wistar Hannover (BrlHan:WIST@Jcl[GALAS]),雌,16 週齢.
[臨床事項]繁殖毒性試験に用いた動物で,妊娠 20 日目に計画殺,剖検の 12 日前より頚腹部に腫瘤が触知された.
[剖検所見]頚腹部皮下に直径約 30mm の淡褐色腫瘤が観察された. 腫瘤の一部に正常の唾液腺が確認された. 腫瘤の横断面は,淡褐色〜白色,充実性で,内部に暗赤色巣が散見された.
[組織所見]腫瘍は皮下に存在し,線維性の被膜で被包化され表皮との連続性は見られなかった. 腫瘍細胞は類円形から楕円形の核と好塩基性の比較的乏しい細胞質を有し,充実性に増殖していた. また,腫瘍全体に扁平上皮化生が散見された(図 1). 腫瘍の辺縁部では線維性結合織に分画され胞巣状に増殖する部位(図 2)が認められ,明瞭ではないものの,一部に腺管状に増殖する像も見られた. 高悪性度を示す所見として,核の異型性や分裂像とともに,出血,壊死,被膜への軽度の浸潤像が観察された. 腫瘍細胞は PAS 染色陰性,免疫染色では Keratin(図 3),Vimentin(図 4),GFAP(図 5),p63(図 6),Prominin-1(図 7)に陽性であった.
[診断]唾液腺にみられた低分化腺癌
[考察]腫瘍細胞は中心部では充実性増殖を,辺縁部では胞巣状増殖を示し,Keratin および Vimentin に陽性であった. ラットの唾液腺由来の未分化癌では,腫瘍細胞が Keratin と Vimentin の両方に陽性を示すという報告 1) があり,組織像も今回の症例と類似していたことから,診断の候補に挙げられた. 一方,本症例では p63 および GFAP に陽性を示す筋上皮様の細胞が認められたことから,多形腺腫もしくは筋上皮腫(筋上皮癌)も疑われた. しかし軟骨や粘液などの基質の産生を認めないこと,および増殖パターンの違いからこれらを除外した. 前述の未分化癌では腫瘍細胞が筋上皮への分化を示すという報告はなされていないこと,本症例では一部に腺管状に増殖する部位が見られたことから,本症例を未分化癌ではなく低分化腺癌と診断した. Prominin-1 は唾液腺の介在導管および腺房の上皮細胞の頂端膜や stem cell に陽性を示すことが報告されており,腫瘍細胞にも一部,正常な顎下腺,耳下腺に類似する陽性像がみられたことから,本腫瘍の由来は顎下腺もしくは耳下腺であると考えられた.(嶋田悠子)
[参考文献]
1) Nishikawa, S., Sano, F., Takagi, K., Okada, M., Sugimoto, J., Takagi, S. 2010. Spontaneous poorly differentiated carcinoma with cells positive for vimentin in a salivary gland of a young rat. Toxicol. Pathol. 38:315-318.