No.1040 イヌの内股部腫瘤

東京農工大学


[動物]イヌ,ブラッドハウンド,雌,11 歳.
[臨床事項]2009 年 3 月上旬に左内股部皮下腫瘤に気づく.その 3 日後に食欲低下,若干の元気消失の主訴で某動物病院に来院.来院5日後に腫瘍を摘出し,退院.その後良好に経過するも,術後 2 ヶ月目に急死.飼い主の希望により剖検は行わなかった.摘出した腫瘍がホルマリン固定後,当研究室に送付された.
[肉眼所見]腫瘍は 6×8×1 cm と 4×3×1 cm の 2 つの腫瘤から構成され,腫瘍を被う皮膚の一部は浅く潰瘍化していた(4 cm 径).6×8×1 cm の腫瘤は割面で灰白色の結合組織様弾性組織に淡褐色巣が不規則に混在しており,4×3×1 cm の腫瘤は一様に灰白色の結合組織様弾性組織で構成されていた.
[組織所見] 皮下組織において,大小不同,紡錘形〜多角形の細胞が束状あるいは不整な花筵状に増殖している(図 1).増殖細胞の核は淡明,核小体明瞭で異型性は高く,分裂像も多い(22 個 / 10 HPF ; 図 2).トリクローム染色で青染する膠原線維の産生も豊富である(図 3).周囲組織との境界は不明瞭で,広範囲に壊死巣がみられ(図 1),その周囲にはリンパ球,マクロファージが浸潤している.免疫染色では腫瘍細胞は vimentin,α-smooth muscle actin (図 4)および calponin (図 5)に陽性を示した.
[診断]高グレード筋線維芽細胞肉腫(High-grade myofibroblastic sarcoma)
[考察]ヒトでは筋線維芽細胞腫瘍は 4 つのサブタイプに区分され,その 1 つである高グレード筋線維芽細胞肉腫は豊富な膠原線維産生を伴う細長い紡錘形腫瘍細胞の花筵状増殖ならびに多数の分裂像と壊死巣形成を特徴とする.これらの組織学的特徴は本症例のものと合致する所見であり,免疫染色結果もヒトの筋線維芽細胞肉腫の場合とほぼ合致していた.これらのことから,現在の動物の腫瘍分類では筋線維芽細胞腫瘍はないが,ヒトでの診断区分に基づいて本症例の診断を高グレード筋線維芽細胞肉腫とした.(北条友理・鈴木和彦)
[参考文献]
1) Mentzel, T. 2001. Myofibroblastic sarcomas: a brief review of sarcomas showing a myofibroblastic line of differentiation and discussion of the differential diagnosis. Curr. Diag. Pathol. 7: 17-24.