No.1042 イヌの包皮口腫瘤

岩手大学


[動物]イヌ,アメリカンコッカースパニエル,雄,7 歳.
[臨床事項]2010 年 9 月頃に包皮口部の腫瘤に気付き,ホームドクターへ来院した.同月 21 日に包皮口部が外科的に切除され,当該部位がホルマリン固定材料として当研究室へ送付された.血液生化学的検査や単純 X 線検査では著変は認められなかった.
[肉眼所見]包皮口の左側先端に 1.7×1.1 cm 大,右側に 1.6×1.2 cm 大の腫瘤がそれぞれ認められた.切り出し時の割面は,両側ともに白色から黄白色充実性であった.
[組織所見]腫瘤のほとんどの領域は,ケラチン物質を伴った多数の類上皮細胞と好中球の浸潤からなる化膿性肉芽腫性病変により構成されていた .一部の領域では,リンパ球・形質細胞浸潤を伴う類上皮細胞結節による充実性病変がみられた.病変部では,円形から楕円形,ボーリングピン様の酵母様真菌の集塊が散在性に認められた(図 1).それら酵母様真菌は PAS およびグロコット染色に陽性を示し(図 2, 3),グラム染色やチールネルゼン染色にはいずれも染色されなかった.電子顕微鏡検査では,酵母様真菌の内壁は規則性のあるらせん状の突起状構造を呈し,楕円形の一方にくびれを有して開口部と考えられる構造を示しており,それらはマラセチア属菌の超微形態の特徴と一致していた(図 4).
[診断]マラセチア属菌がみられた化膿性肉芽腫性陰茎包皮炎 pyogranulomatous phalloposthitis with Malassezia sp.
[考察]従来,犬では主に Malassezia pachydermatis による外耳炎や皮膚炎などが知られているが,近年,ヒトでは M. pachydermatisM. sympodialis による肉芽腫性皮膚炎が報告されている.本症例では,皮脂の分泌が豊富な包皮において脂活性を有するマラセチア属菌が過剰に増殖したものと考えられ,化膿性肉芽腫性病変の原因としてその関与が疑われた.(佐々木淳)
[参考文献]
1) Harsha BD, et al. 2011. Arch Pathol lab Med 135: 1085-1087.
2) Yi-Ming Fan, et al. 2006. Arch Dermatol 142: 1181-1184.