No.1044 イヌの眼球

住化テクノサービス(株)


[動物]イヌ,ゴールデン・レトリバー,雌(未避妊),8 歳 8 ヶ月.
[臨床事項]左側眼球の異常を主訴に某動物病院へ来院.検査によって,眼内出血および増殖性病変を認めたことから左側眼球摘出術が行われた.
[肉眼所見]割面において,強膜は明瞭であった.病巣は,ブドウ膜領域に沿う形で眼内全周性に形成されていた(図 1).病巣内では,白色調領域あるいは黒色調領域が大半を占めていた.水晶体は脱臼し,眼球内に脱落していた.視神経に著変はみられなかった.
[組織所見]虹彩から毛様体および脈絡膜にかけて全周性に大型の腫瘍細胞による増殖が認められた.腫瘍細胞はシート状(図 2)あるいは独立円形細胞様(図 3)に増殖していた.腫瘍細胞の形態は,大小不同な類円形を主体とし,一部で紡錘形を呈する部分もみられた.腫瘍細胞の細胞質は,広く,好酸性を呈しており,細胞質内にはメラニン顆粒、赤血球やリンパ球をしばしば容れていた.腫瘍細胞の核は,大型でしばしば核膜不整,核小体が明瞭であった.また,多核や巨核を有する腫瘍細胞も多数観察された.免疫染色において,腫瘍細胞は,Iba-1(図 4),Lysozyme,MHC-Class II および Vimentin の各抗体にいずれにも陽性を示した.一方、腫瘍細胞は,メラニン細胞マーカーの Melan-A と S-100, そしてリンパ球系マーカーの CD3,CD20 および CD79αcy の各抗体にいずれにも陰性であった.電子顕微鏡による超微細構造の観察において,大型の腫瘍細胞に細胞突起が確認されたが,細胞間接着装置は認められなかった.また,細胞質内に認められたメラニン顆粒はファゴソーム内に存在していることが確認された(図 5).
[診断]犬の眼球内組織球性肉腫
[考察]犬の眼球内組織球性肉腫の発生は,非常に少ない.一方,眼球内原発腫瘍で高率に発生するのはメラニン細胞腫瘍であり,これは細胞形態的に組織球性肉腫との鑑別が重要である.また,臨床的な予後についても眼球内組織球性肉腫は,メラニン細胞腫瘍よりも転移傾向が非常に強く,病態進行も早いことから組織診断上重要な鑑別項目である.本例は,眼球の異常を主訴に動物病院へ来院し,臨床検査において眼球以外に著変は認められなかった.また,眼球内には樹状細胞やマクロファージが常在していることから,今回の組織球性肉腫は眼球内に起源することが考えられた.(鈴木 学)
[参考文献]
1) Naranjo, C., Dubeilzig, R.R., and Friedrichs, K.R. 2007. Canine ocular histiocytic sarcoma. Vet Ophthalmol. 10:179-85.