[動物]イヌ,パピヨン,雌,9 歳 10 ヶ月齢.
[臨床事項]右第 3 と左第 4 乳腺腫瘤の摘出手術に際した身体検査で,左卵巣部に腫瘤が確認されたため,乳腺腫瘤とともに子宮卵巣が摘出された.乳腺腫瘤と,左卵巣部腫瘤から左子宮角の一部が,ホルマリン固定後当方へ送付された.
[肉眼所見]ホルマリン固定後の左卵巣腫瘤は 5.2×4.5×3.2 cm 大で,表面は乳白色,平滑〜結節状,弾性軟であった.割面は白色〜淡黄色で,壊死巣がしばしば観察された.
[組織所見]腫瘤内は結合組織によって複数の小葉に分画され,各小葉では N/C 比の高い類円形細胞が充実状に増殖しており,しばしば壊死巣が形成されていた(図 1).腫瘤辺縁ではわずかに本来の間質腺が認められた.多くの腫瘍細胞は胚細胞様で,好酸性〜淡明の細胞質と,1〜2 個の明瞭な核小体を入れた大型類円形核を有しており,核分裂像は多かった(図 2).ときに,上皮様の腺管構造(図 3)や角化を示す細胞(図 4)が混在していた.
免疫染色では,胚細胞様細胞,上皮様細胞(矢印)ともに,octamer 4,CD30 に陽性(図 5;octamer 4, 図6;CD30),alpha-fetoprotein に弱陽性であった.Cytokeratin AE1/AE3, CAM 5.2 では上皮様細胞が強陽性,胚細胞様細胞は部分的に弱陽性を示した(図7;AE1/AE3).Vimentin では胚細胞様細胞が部分的に陽性,上皮様細胞は陰性を呈した.
[診断]犬の卵巣における混合型胚細胞腫瘍(胎児性癌を伴う未分化胚細胞腫)
[考察]ヒトや動物では純粋な胎児性癌の発生はまれで,ヒトでは胎児性癌の多くは混合型の一成分として認められ,動物の報告でも混合型が多い.本例は組織学的及び免疫組織化学的に,腫瘍の大部分の成分は未分化胚細胞腫で,上皮様の部分は胎児性癌の成分と考えられた.よって純粋な胎児性癌とはせず,上記診断とした.(阿野直子)
[参考文献] 1) Ulbright, T. M., 2005. Germ cell tumors of the gonads: a selective review emphasizing problems in differential diagnosis, newly appreciated, and controversial issues. Mod Pathol, 18 Suppl 2: S61-79.
2) Yokouchi, Y., Imaoka, M., Sayama, A. and Sanbuissho, A. 2011. Mixed germ cell tumor with embryonal carcinoma, choriocarcinoma, and epithelioid trophoblastic tumor in the ovary of a cynomolgus monkey. Toxicol Pathol, 39: 553-558.
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