No.1046 ハクチョウの心臓

北海道大学


[動物]野生オオハクチョウの幼鳥.
[臨床事項]本症例は 2011 年 1 月に北海道浜中町で衰弱しているところを発見され, 安楽殺された. 簡易検査キットにて口腔スワブからインフルエンザウイルス陽性反応が得られたため, 本学獣医学研究科 BSL3 室内に搬入し剖検された.
[肉眼所見]剖検時, 膵臓には最大径 8 mm の壊死巣が散在しており, 肺には軽度の水腫が認められた.
[組織所見]心室壁全域にかけて, 多病巣性から癒合性の病巣が認められた(図 1). 病巣は心筋細胞の壊死とマクロファージ, リンパ球の浸潤により構成されていた(図 2). また, 心室壁内に線虫の成体が雌雄 1 対で寄生しており(図 3), その子宮内には多数の子虫(ミクロフィラリア)が観察された(図 3, 挿入図). 虫体に対する炎症性細胞反応は軽微であった.
[診断]1. 非化膿性心筋炎, 多病巣性から癒合性, 重度 
     2. ミクロフィラリアを内包する線虫成体の寄生 
[考察]本症例では心筋炎に加えて壊死性膵炎および非化膿性脳炎も認められた. 免疫組織化学的検索によりこれら病巣内にインフルエンザウイルス抗原が検出された(図 4). また, 気管, 肺, 結腸, 脳から H5N1 型のインフルエンザウイルスが分離された. 以上より, 本症例はインフルエンザウイルスの全身感染を起こしていたことが判明した. 線虫の寄生が認められた臓器は心臓のみであり, 線虫の寄生部位および形態は過去に報告されている Sarconema eurycerca に一致した. 本フィラリア線虫はシラミの吸血によって媒介され, 致死的感染例も報告されているが, 病原性の詳細は不明である. 本症例はインフルエンザウイルスの全身感染例であり, フィラリアの寄生は偶発所見であると推定した. 集会において, 配布切片の一部では心筋炎の病巣内にミクロフィラリアが確認されており, これらミクロフィラリアによる心筋炎誘発の可能性も考慮するべきである点が指摘された.(寸田祐嗣)
[参考文献]
1) Irwin, J.C. 1975. Mortality in whistling swans at lale St.Clair, Ontario. J. Wildl. Dis. 11: 8-12.
2) Wobeser, G.A. 1981. Metazoan parasites. pp.1290-131. In:Diseases of wild waterfowl. Plenum, New York.
3) Rebecca, A.C. 1999. Heartworm of swans and geese. In:Field manual of wildlife diseases (Friend, M. and Franson, J.C. eds.) . USGS, National Wildlife Health Center, Madison.
4) Woo, G.H., Jean, Y.H., Bak, E.J., Kang, S., Roh, I.S., Lee, K.H., Hwang, E.K. and Lee, O.S. 2010. Myocarditis by nematodes infection, presumably Sarconema eurycerca, in a wild whooper swan (Cygnus cygnus) in Korea. J. Vet. Med. Sci. 72: 1233-1235.