No.1049 ネコの頸部リンパ節

ACVP 日本人会 (JaGA)


[動物]家ネコ,短毛種,去勢オス,年齢不明.
[臨床事項]1 cm ほどの皮下腫瘤を腹側頸部に認め,経過観察をしたところ 8 ヵ月後の再検時には 2.4 cm となっていた.腫瘍を疑い,外科的切除を行った.その他の臨床症状は認められなかった.
[組織所見]腫瘤は腫張したリンパ節であり,び漫性に出血とうっ血を認める.リンパ球は高度に枯渇し,髄質の部分では特に顕著である(図 1).髄質域では,拡張した髄洞がメッシュ状の毛細血管様構造によって置き換えられており,さらに同様の構造が傍皮質および皮質部分へリンパ洞を中心に広がるが,もともと存在するリンパ節の構造は破壊されることなく比較的良く保たれている.血管様構造は血管内皮に似た紡錘形細胞が並び,これらの細胞に異型性は認めない(図 2).リンパ門部の脈管(輸出リンパ管・静脈)は,リンパあるいは血漿で高度に拡張する.免疫染色では,内皮様の紡錘形細胞は Factor VIII related antigen に強陽性を示し(図 3),血管壁の部分では SMA の発現も認められたことから(図 4)血管に類似した構造が増殖していることが示唆された.
[診断]ネコリンパ節の蔓状血管化 (Feline Plexiform Vascularization of Lymph node)
[考察]ネコリンパ節の蔓状血管化は,毛細血管の増殖とリンパ球の枯渇を伴ったリンパ節腫大を特徴とする病変で,頸部や鼠径リンパ節に単独に起こることが多い.類似病変として,ヒトでは Vascular transformation of lymph node sinuses や Nodal angiomatosis が知られており,またウサギを使った実験では,輸出リンパ管を縛った場合,あるいはリンパ節静脈とリンパ管を不完全に縛った場合に同様な病変が再現されている. 病理発生機序は現在のところ不明だが,ヒトでは血栓症,重度の虚血性心不全,癌患者などに見られることから,リンパや静脈の流れが阻害されることによって起こると思われている.ただ,ネコの場合,リンパ節以外の病変は認められず,罹患個体は健康であることが多い.研修会では,リンパ管が血管化を起こしているのか,それとも新たに血管形成が起きているのかが議論となった.この点を検証するため,大阪府立大学の井澤先生のご協力により,リンパ管内皮マーカーである Prox1 で染色していただいた.しかし残念ながらネコの組織に対する Prox1 の反応性はイヌより弱く,本症例でははっきりとした染色性は確認できなかった.今後ほかのリンパ管に対するマーカーでさらに検討する必要があると思われた.(田邊 美加)
[参考文献]
Lucke, V.M., Davies, J.D., Wood, C.M. and Whitbread, T.J. 1987. Plexiform vascularization of lymph nodes: an unusual but distinctive lymphadenopathy in cats. J. Comp. Path. 97(2): 109-19.