No.1053 ウサギの肝臓

摂南大学


[動物]ウサギ,ホーランドロップ,雌(未避妊),2 歳 8 ヶ月.
[臨床事項]生後 10 ヶ月頃より GPT と ALP の高値を示し,肝障害の治療を続けていた.2 歳 6 ヶ月頃から軽度の黄疸と腹水の貯留を認めた.原因追及の為に肝生検が行われた.
[組織所見]グリソン鞘周囲および小葉内において大小不同な胆管の増生が瀰漫性に認められた.グリソン鞘周囲では,管腔および基底膜の明瞭な細胆管の増生が主体であり,これらは小型細胞で構成されていた(図 1).グリソン鞘周囲以外の小葉内では,小葉を置換するように大小不同,管腔や基底膜の不整な胆管様構造が瀰漫性に認められた.これら胆管様構造は,細胆管を構成しているものと同様の小型細胞と肝細胞に類する大型細胞で形成されていた(図 2).その他,類洞や細胞周囲に沿って膠原線維の増生がみられた(図 3).免疫染色を用いて胆管様構造の由来について検索した.CK7 において組織を全置換するほどの広範囲で胆管形成が確認された(図 4).CK7 では,主に細胆管と胆管様構造を形成する小型細胞で強陽性を示し,大型細胞では陰性であった.CK8/18,CK19 (図 5),CK20 では,いずれの抗体でも細胆管と胆管様構造を形成する小型細胞で強陽性,大型細胞で陽性を示した.また,anti-Hepatocyte 抗体では,胆管様構造を形成しない弧在性の肝細胞にのみ強陽性を示した.以上より胆管様構造の小型細胞は細胆管と同様の染色性を示し,大型細胞は胆管上皮細胞と肝細胞の 2 つの表現形質を有することが示唆された.
[診断]類洞の線維化を伴う汎小葉性細胆管反応
[考察]本例では,組織を全置換するほどの顕著な胆管増生が認められた.増生する胆管は,所見から既存の胆管による過形成と肝細胞からの胆管化生が混在していると考えられた.近年,細胆管反応という用語が用いられており,Desmet はこれを細胞の由来および形成部位から細分類している.これによると細胆管反応は,胆管過形成および胆管化生のいずれをも包括するとしている.よって,本例の診断名は増生する胆管の 2 つの起源を考慮して,単なる胆管過形成ではなく,細胆管反応とすることが適当と考えられた.一方,細胆管反応の発生原因としては多岐にわたる.本例では,胆管炎を示唆する明らかな所見はみられず,炎症も軽度であり非特異的であると考えられた.よって、本例の形成原因について確定するには至らなかった.(鈴木 学)
[参考文献]
1) Desmet, V.J. 2011. Ductal plates in hepatic ductular reactions. Hypothesis and implications. I. Types of ductular reaction reconsidered. Virchows Archiv. 458: 251-9.