[動物]ウシ,黒毛和種,雌,11 カ月齢.
[臨床事項]7 カ月齢時より,右肩から前腕にかけて線状に分布する表面が化膿した表皮の疣状肥厚がみられた.抗生物質軟膏やイベルメクチンによる加療を実施し,経過を観察したところ,病変部の面積はわずかに縮小したが,依然として皮膚病変は広範に認められた.なお,同居牛では,本例のような皮膚病変は認められていない.
[肉眼所見]線状に分布する同様の皮膚病変は,右乳房の尾側面から右前位乳頭にかけての領域および鼠径部でも散在性に認められた.
[組織所見]表皮は乳頭状過形成を呈し,表層では痂皮形成が認められた(図 1および 2).また,好酸球を含む高度の炎症細胞浸潤を伴った重篤な錯角化性過角化も認められた (図 3).さらに,表皮表層には複数の膿疱が形成されており,膿疱内には棘融解細胞,好酸球および好中球がみられた(図 4).抗サイトケラチンを用いた免疫染色では,膿疱内の棘融解細胞が陽性を示した(図 5).PAS 染色およびチール・ネルゼン染色では,病原体は認められなかった.また,抗ウシパピローマウイルス抗体を用いた免疫染色でも陽性所見は得られなかった.
[診断]炎症性線状疣状表皮母斑 (Inflammatory linear verrucous epidermal nevus)
[考察]本例の病変は,肉眼的には線状・片側性に分布する表皮の疣状肥厚を,組織学的には表皮の錯角化性過角化,棘細胞融解の出現を伴う表皮内膿疱の形成,および好酸球・好中球を主体とする炎症性細胞浸潤を特徴としていた.これらの病理像は,ヒトやイヌでの発生が知られている炎症性線状疣状表皮母斑の特徴像と一致していた.また,PAS 染色等で病原体が認められなかったこと,およびパピローマウイルス抗原が検出されなかったことから,炎症性線状疣状表皮母斑と診断した.本疾患では,病変は胎生期に皮膚へと分化する細胞の拡張方向を示す Blaschko 線に沿って生じる線状の病巣分布が特徴的とされている.本疾患の原因として,ヒトでは遺伝的要因の関与が疑われている.イヌでは,コッカー・スパニエルで複数の発生報告があるものの,原因は不明とされている.(千葉史織・古林与志安)
[参考文献] 1) Gross, T. L., Ihrke, P. J., Walder, E. J., Affolter, V. K. 2005. Skin Diseases of the Dog and Cat, Clinical and Histopathologic Diagnosis, 2nd ed, Blackwell Science Ltd, Oxford.
2) Beningo, K. E., Scott, D. W. 2001. Idiopathic linear pustular acantholytic dermatosis in a young Brittany Spaniel dog. Vet Dermatol, 12: 209-213.
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