[動物]イヌ,ミニチュア・ダックスフント,雄,13 歳.
[臨床事項]左側精巣の腫大に気づき,二週間後に外科的に摘出された.他に既往歴なし.
[肉眼所見]左精巣上体は 7.0×4.5×3.5 cm に腫瘤化していた.精巣は同腫瘤に圧排され高度に萎縮していた.また,精巣割面にも 1.5×0.7×0.7 cm の小腫瘤を認めた.精巣上体,精巣の腫瘤はともに乳白色充実性であった.
[組織所見]精巣上体腫瘤では,大型淡明核と明るい細胞質を有する大型腫瘍細胞と,クロマチンに富む小型核で,好酸性の細胞質を有する小型腫瘍細胞のび漫性増殖がみられた (図 1) .一部の腫瘍細胞は細胞質内に脂肪滴を有していた.これらの腫瘍細胞は白膜を破り精巣実質内に軽度浸潤していた.精巣内小腫瘤では,多角形腫瘍細胞が充実性に増殖し,異型核分裂像もみられた.細胞質は弱好酸性微細顆粒状ないし淡明で,しばしば脂肪滴を有していた.免疫染色では,精巣上体,精巣内両腫瘍ともに androgen receptor,3β-HSD (図 2),WT-1 に陽性で,さらに精巣上体腫瘍は α-SMA (図 3),desmin,S-100 (図 4) にも陽性を示した.一方,両腫瘍とも cytokeratin AE1/AE3,inhibin-α には陰性であった.電顕では,精巣上体腫瘍の大型明細胞の細胞質内に少量の脂質と伸長したミトコンドリアがみられた.小型細胞は細胞質内に多数の細フィラメントと発達した粗面小胞体を含み,隣接細胞との間で細胞突起の interdigitation を形成していた.
[診断]悪性性索/性腺間質腫瘍 (Malignant sex cord/gonadal stromal tumor)
[考察]免疫染色結果および電顕所見により,精巣上体腫瘍は一部 Leydig 細胞,筋様細胞への分化がみられたが,全体に分化度の低い腫瘍であった.また,顕著な核異型,高い増殖活性,広範囲の壊死,精巣実質内への浸潤像など悪性の所見がみられたことから,悪性性索/性腺間質腫瘍と診断した.ヒトの性索/性腺間質腫瘍の構成細胞として筋様細胞が報告されているが,イヌでは初めてである.精巣内腫瘍は悪性 Leydig 細胞腫と診断された.
(安井 潤紀)
[参考文献] 1) Eble,J.N., Sauter,G., Epstein,J.I., Sesterhenn,I.A. 2004. WHO Classification, Tumors of the urinary system and male genital organs. IARC Press, Lyon.
2) Maekawa, M.K., Kamimura,K., Nagano,T. 1996. Peritubular myoid cells in the testis: their structure and function. Arch.Histol.Cytol. 59: 1-13.
3) Du,S., Powell,J., Hii,A., Weidner,N. 2012. Myoid gonadal stromal tumor: a distinct testicular tumor with peritubular myoid cell differentiation. Hum.Pathol. 43: 144-149.
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