[動物]ラット,F344/DuCrlCrj,雌,90 週齢.
[臨床事項]発がん性試験に用いた対照群の動物で,試験 84 週に自発運動の低下を示し,
同週に死亡した.死因は下垂体腫瘍と考えられた.
[剖検所見]7 x 4 x 3 mm大の淡桃色,表面滑沢な軟結節が,左側卵巣に堅固に付着していた.
[組織所見]結節は,付着していた卵巣の表層上皮と連続性のある(図 1)単層の立方状からやや扁平の上皮様細胞に覆われた乳頭状・管状増殖からなり,間質は微小血管を含む線維性結合組織により構成されていた(図 2).上皮様細胞は細胞質に乏しく,類円形〜長楕円形の淡明な核を有していた.複雑な乳頭状・管状増殖により形成された内腔には,大小の細胞質内空胞を多数有する大型の細胞が充満していた(図 3).空胞化細胞は円形〜類円形の淡明な核を有し,一部の細胞の細胞質内に大小の好酸性滴状物が観察された.これらの滴状物はジアスターゼ耐性,PAS 陽性,アルシアンブルー陰性を示した.いずれの細胞も異型性に乏しく,核分裂像は稀であった.免疫染色において,乳頭状・管状増殖を示す上皮様細胞は cytokeratin AE1/AE3 陽性,vimentin 陽性であり,中皮由来の卵巣表層上皮と同様の染色性を示した.一方,空胞化細胞は cytokeratin 陰性(図 4),vimentin 陽性(図 5)であった.鍍銀染色により,乳頭状・管状増殖を示す上皮様細胞には基底膜が観察されたが,内腔の空胞化細胞には好銀線維はほとんどみられなかった.
[診断]ラットの卵巣の管状間質腺腫(Tuburostromal adenoma)
[考察]管状間質腺腫は卵巣の上皮性腫瘍のひとつであり,マウスでは比較的高い発生率を示すが,ラットでは稀とされる.げっ歯類において,本腫瘍は卵巣の表層上皮の downgrowth にはじまり,表層上皮に類似あるいは連続する立方状上皮細胞の管状増殖および性索-間質由来とされる空胞化あるいは黄体化した細胞の増殖を特徴とし,本腫瘍の組織像と一致した.成書に記載されている典型的な組織像とは少し異なるが,卵巣の表層上皮と性索-間質由来と考えられる 2 つの成分の増殖が認められたことから管状間質腺腫に相当すると考えられた.(山下 龍)
[参考文献] 1) Alison, R. and Morgan, K. 1987. Ovarian neoplasms in F344 rats and B6C3F1 mice. Environ Health Perspect. 73:91-106.
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