[動物]イヌ,チワワ,雄,7 歳齢.
[臨床事項]疼痛反応,跛行,一般状態の悪化を主訴に近医を受診.保存療法を行うも病状が進行し,両後肢完全麻痺となったため,本学獣医臨床センターに来院.MRI 検査により,第 12 および 13 胸髄右側に腫瘤を認め,片側椎弓切除術にて腫瘤を切除した.術後,一時的に症状の改善が認められたが,徐々に一般状態が悪化.初診から約 10 ヵ月後に呼吸困難を呈して死亡したため,当教室にて剖検を実施した.
[剖検所見]第 12 および 13 胸髄に直径約 1.5 cm の黄白色〜淡桃色の腫瘤が認められた.第 2 頚髄から第 4 腰髄では,同様の腫瘤が髄膜相当部に全周性に認められ(図 1),第 5・6 頚髄では脊髄実質内への明らかな浸潤性増殖が確認された.
[組織所見]提出標本(第 10 胸髄)では,好酸性の細胞質を有する類円形〜紡錘形の腫瘍細胞がびまん性に増殖し,乳頭状・放射状配列を示す部位も認められた(図 2, 3).腫瘍細胞は中程度から強い異型性を示し,有糸分裂像がしばしば観察され,壊死巣も認められた.腫瘍細胞は脊髄実質へも浸潤し,実質部分には正常構造は残存しておらず,完全に瘢痕化していた(図 1).また,第 12 および 13 胸髄部の腫瘤では,腫瘍細胞の血管を中心とした乳頭状配列も認められた(図 4 ; 矢印).さらに,肺において,脊髄で認められたものと同様の腫瘍細胞の結節性増殖が確認された.免疫染色では,腫瘍細胞は vimentin に強陽性,S-100 に一部が陽性を示し,GFAP には陰性であった.上皮系マーカー(CK AE1/AE3 および E-cadherin)についても追加検討を行ったが,明らかな陽性所見は認められなかった.
[診断]悪性髄膜腫 Malignant meningioma
[考察]今回の症例は,腫瘍細胞の脊髄実質への浸潤性増殖と肺への遠隔転移が認められ,悪性所見が顕著であった.また,組織学的には,腫瘍細胞の乳頭状増殖が特徴的であり,非常に稀な髄膜腫であると考えられた.(田中美有・桑村 充)
[参考文献] 1) WHO Histological classification of tumors of the nervous system of domestic animals. 1999.
27-29.
2) Motta, L., Mandara, M. T., and Skerritt, G. C. 2012. Canine and feline intracranial meningiomas: An updated review. Vet J. 192 (2): 153-165.
|