[動物]ウシ, ホルスタイン種, 雌, 4 ヵ月齢.
[臨床事項]症例は生まれつき活力および食欲がなく,徐々に衰弱が進行した.身体検査では皮膚の冷感,可視粘膜のチアノーゼおよび心雑音が認められた.また,駆血しても頚静脈が怒張しなかった.心電図検査では PQ 時間の延長および QRS 時間の延長が,心エコー検査では心室の収縮時間の延長が認められた.血液検査では白血球数の増加(16,300/μl)および電解質の低下(Na : 116 mEq/l,K : 1.7 mEq/l,Cl : 74 mEq/l)が認められた.
[剖検所見]肉眼的に,心臓に著変は認められなかった.
[組織所見]対照例の心室壁(図 1)と比較して,本例の心室壁には太いプルキンエ線維の束が多数認められた(図 2).プルキンエ線維は特に血管の周囲に多数認められた(図 3).対照例と比較して,個々のプルキンエ線維に強い形態学的異常は認められなかった.本例のプルキンエ線維束は心室壁全域に分布し,その数は対照例と比べて増加していた(図 4).また,一束あたりに含まれるプルキンエ線維の数は増加していた.症例のプルキンエ線維の一部は,PTAH 染色に強陽性を示し(図 5),免疫組織学的にα-SMA に陽性を示した(図 6).
[診断]若齢ホルスタイン牛におけるプルキンエ線維の増数
[考察]本例は,組織学的に非常に多数のプルキンエ線維が心室壁全域に認められた.HE 標本上では,形態学的に個々のプルキンエ線維に著変は認められないものの,プルキンエ線維の一部は PTAH 染色に強陽性を示し筋原線維を豊富に有すると考えられ,さらに,発生過程のプルキンエ線維にのみ発現するα-SMA に陽性を示した.これらは本例のプルキンエ線維に発生過程の未熟なものが存在することを示唆していると考えられた.年齢を考慮し,本所見はプルキンエ線維の発生異常を示唆すると考えられた.今回,洞房結節および房室結節を組織学的に検索できず,心電図検査における異常の原因を特定することができなかった. しかし, プルキンエ線維の増数および未熟なプルキンエ線維の存在が心電図の異常に関連する可能性があると思われた.研修会では,ヒトの Multifocal cardiac Purkinje cell tumor との類似性が指摘された.(櫻井 優・森田 剛仁)
[参考文献] Ottaviani, G., Matturri, L., Rossi, L., Lavezzi, A.M. and James, T.N. 2004. Multifocal cardiac Purkinje cell tumor in infancy. Europace 6:138-141.
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