No.1074 ウシの肺

帯広畜産大学


[動物]ウシ,ホルスタイン種,雌,2 歳 6 ヵ月齢.
[臨床事項]2010 年 8 月から,肺炎などのために治療を受けていた.2012 年 2 月より神経過敏や右旋回運動などの神経症状を呈し,意識低下も出現した.身体検査所見では,斜頚および斜視などに加え,心臓基底部側において収縮期心雑音が聴取された.同年 3 月,帯広畜産大学において,病理解剖に供された.
[剖検所見]肺は,全体的に赤色調を呈し,硬度はわずかに増大していた.また,両肺後葉の胸膜は軽度に肥厚していた.なお,脳では,左大脳半球全体および右前頭葉部の大脳脳回が著しく腫脹していた.割面では,左線条体〜視床部に多量の黄白色クリーム状膿汁を容れた膿瘍が存在し,同部に近接する右大脳半球は圧排されていた.心臓では,高位心室中隔にφ 4 cm 大の欠損孔が存在し,右心室壁および心室中隔壁は肥厚していた.また,肺動脈は高度に拡張していた.
[組織所見]主に気管支近傍に存在する小〜中肺動脈枝において,内膜の肥厚,中膜の肥厚,動脈炎,肥厚した内膜・中膜および外膜における微小血管の増生が認められた.また,内膜・中膜の肥厚した血管から派生するように形成された微小血管の無秩序な網目構造,いわゆる叢状病変( Plexiform lesion )も認められた(図 1,HE 染色).さらに,叢状病変の下流などにおいて,血管壁が菲薄化し,内腔が拡張して静脈様を呈した動脈,いわゆる拡張性病変( Dilatation lesion )も認められた(図 2,HE 染色).動脈炎は散在性であり,血管壁への好中球などの炎症細胞浸潤や細胞崩壊産物が認められた(図 3,HE 染色).器質化血栓の再疎通像と考えられる組織像も認められた(図 4,エラスチカ・ワンギーソン染色).
[診断]心室中隔欠損牛でみられた Pulmonary plexogenic arteriopathy(肺動脈叢状血管症)
[考察]本症例の肺小動脈の変化は,特徴的な病変である叢状病変 plexiform lesion が認められるなど,ヒトの肺動脈性肺高血圧における肺小動脈の病理組織像,すなわち Pulmonary plexogenic arteriopathy と類似していた.本例は,心室中隔欠損を伴っていたことから,先天性心疾患に伴う二次性の肺動脈性肺高血圧症であったと考えられる.(杉本 和也・古林 与志安)
[参考文献]
1) Stenmark, K.R., et al. 2009. Animal models of pulmonary arterial hypertension: the hope for etiological discovery and pharmacological cure. Am. J. Physiol. - Lung Cell Mol. Physiol. 297: L1013-1032.
2) Wagenvoort, C.A. 1994. Plexogenic arteriopathy. Thorax. 49: S39-S45.