No.1080 ケツギョの肝臓・腎臓

大阪府立大学


[動物]魚,ケツギョ (Siniperca chuatsi),雄,年齢不明,体重 550 g.
[臨床事項]水族館において 20 年ほど群で繁殖を繰り返しながら飼育されていたが,2011 年の春には繁殖せず,春から夏にかけて削痩する個体が現れ始めた.その後 30 匹以上いた群の約半数が次々に死亡し始め,最終的に全個体が死亡した.水族館の獣医師によって剖検され,主要臓器が当研究室に送付された.
[剖検所見]肝臓,腎臓,鰓など多くの臓器で褪色が見られた.
[組織所見]肝臓において,核および細胞質の肥大した好塩基性の細胞が認められた(図 1, 矢印).また,肝細胞の空胞変性も認められた.腎臓でも同様の好塩基性肥大細胞が認められ(図 2, 矢印),腎間質の造血組織の壊死も認められた.電子顕微鏡による観察で,好塩基性肥大細胞の細胞質に多数のウイルス粒子が認められた(図 3).これらのウイルス粒子は正二十面体で,中心部にコアを有し直径はおよそ 150 nm であった.PCR とシークエンス解析の結果,イリドウイルスの一種である伝染性脾臓腎臓壊死症ウイルス (ISKNV) の遺伝子が検出された.
[診断]ケツギョのイリドウイルス(伝染性脾臓腎臓壊死症ウイルス)感染による肝血管周囲における好塩基性肥大細胞の出現および好塩基性肥大細胞の出現を伴う腎造血組織の壊死
[考察]本疾病の特徴である好塩基性肥大細胞は尿細管や類洞に隣接して存在していたり,グリソン鞘内に存在していた.ISKNV の遺伝子に対する in situ hybridization の結果から,好塩基性肥大細胞は腎間質の線維芽細胞や,肝臓の線維芽細胞,肝星細胞などの間葉系の紡錘形細胞由来の可能性が示唆された(図 4).(田中 夏樹・井澤 武史)
[参考文献]
Tanaka, N., Izawa, T., Kuwamura, M., Higashiguchi, N., Kezuka, C., Kurata, O., Wada, S. and Yamate, J. 2013. The first case of infectious spleen and kidney necrosis virus (ISKNV) infection in aquarium-maintained mandarin fish, Siniperca chuatsi (Basilewsky), in Japan. J. Fish. Dis. (in press).