[動物]ウマ,サラブレッド,牝,2 歳 5 ヶ月齢.
[臨床事項]2 歳の調教中に結腸背方変異による疝痛を発症し,開腹による整復手術を行った.1 週間後の血液検査では BUN 156 mg/dl(正常値は 9.0 - 20.0),CRE 9.74 mg/dl(正常値は 0.9 - 1.8)で,術後の感染性腹膜炎を発症した.その後,食欲廃絶と貧血が明らかとなり,尿毒症を発症したので,手術より 5 ヶ月後に安楽殺処分となった.末梢血を用いた PCR と抗体価測定でレプトスピラは陰性であった.
[剖検所見]臨床獣医師が解剖し,ホルマリン固定後の左右の腎臓,脾臓および肝臓が組織検査のため送付されてきた.固定後の左右腎臓は貧血色を呈し,腎表面になだらかな凹凸があった.割面で3層の境界は不整で,点状,線状あるいは島状の白色巣が皮質を中心に不規則に認められた.肝臓と脾臓に特記すべき病変はなかった.
[組織所見]糸球体では巣状全節性あるいは分節性糸球体硬化(図 1,PAS 染色)と未熟な糸球体様構造の形成(図 2,PAM 染色)が見られた.大部分の皮質尿細管が軽度〜中等度に拡張し,尿細管上皮細胞が時折,管内に乳頭状増殖していた(図 3,PAM 染色).それらの中には毛細血管および間葉系細胞が混在しており,前述の糸球体様構造との区別が困難であった.また,管腔が不明瞭な未熟尿細管(図 4,矢印)および近位尿細管上皮細胞の異形成(図 4,矢頭)が指摘された.尿細管内には少量の尿円柱,コレステリンおよび蓚酸結晶が沈着していた.間質は軽度び漫性あるいは島状に線維化(図 5)し,島状線維化巣では尿細管周囲を輪状に取り囲む線維走行と少量の好塩基性液状物質(アミロイドおよび多糖体染色陰性)の沈着(図 6)が認められた.また,少数のリンパ球と形質細胞がび漫性に浸潤していた.
[診断]馬の腎異形成(Equine renal dysplasia)
[考察]尿細管上皮細胞の乳頭状増殖,未熟な尿細管および島状線維化は過去の馬の腎異形成報告例に一致しており,上記の診断名に至った.尿細管上皮細胞の異形成と未熟な糸球体様構造の記述は成書に見当たらないが,後腎組織の分化異常に起因すると考えられた.
(梅村 孝司)
[参考文献] 1) Anderson, W.I., Picut, C.A., King, J.M., Perdrizet, J.A. 1988. Renal dysplasia in a standardbred colt. Vet Pathol. 25: 179-180.
2) Ronen, N., van Amstel, S.R., Nesbit, J.W., van Rensburg, I.B.J. 1993. Renal dysplasia in two adult horses: clinical and pathological aspects.Vet Rec. 132:269-270.
3) Gull, T., Schmitz, D.G., Bahr, A., Read, W.K., Walker, M. 2001. Renal hypoplasia and dysplasia in an American miniature foal. Vet Rec. 149: 199-203.
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