No.1084 ブタの子宮

岐阜大学


[動物]ブタ,ポットベリーピッグ,雌,推定 10 歳.
[臨床事項]動物園で飼育されていた個体で,2011 年 8 月から不定期に陰部からの出血が認められ,2012 年 9 月頃から出血が目立つようになった.10 月中旬には,削痩し,腹部の腫脹が顕著になった.11 月初旬から陰部から膿様物が排出されるようになった.11 月 22 日に死亡が確認された.
[剖検所見]子宮は,脾臓および腸管を巻き込みつつ,表面が凹凸に富む約 20 cm 大の腫瘤塊を形成し,腹腔後部を占めていた.子宮腔内には粘液や灰白色クリーム状膿様物を容れ,子宮壁の高度肥厚,内膜における粟粒大から 10 o 大の多数の腫瘤形成を認めた.
[組織所見]子宮壁全層において,腫瘍細胞が大小の胞巣を形成しつつ増殖し,脈管内に浸潤する像も認められた (図 1).腫瘍組織は二種類の細胞で構成され,@ 円形から類円形の核と好酸性顆粒状の豊富な細胞質を有する細胞が充実性に増殖し,これに混在して,A 長円形から紡錘形で濃縮した核と好酸性から両染性の細胞質を有する細胞が認められた(図 2 および 3).A の細胞では多核細胞も多数認められた.免疫組織化学的に,両細胞ともに pan-cytokeratin(AE1/AE3,図 4),cytokeratin 7 に陽性,vimentin,octamer4,alpha fetoprotein に陰性を示し,A の細胞は選択的に human chorionic gonadotropin (hCG) に陽性を示した(図 5).この免疫染色パターンは,ヒトの絨毛癌と一致し,他の胚細胞腫瘍とは異なっていた.また,肺,腎臓において転移巣を認めた.
[診断]合胞体性栄養膜細胞様細胞を認めるミニブタの絨毛癌様腫瘍
[考察]本症例の組織学的および免疫組織学的所見は,細胞性栄養膜細胞(@ に相当)と合胞体性栄養膜細胞(A に相当)の二細胞構造を示す絨毛癌の所見と一致していた.しかし,ブタの胎盤は上皮絨毛膜胎盤であり,正常な胎盤には合胞体性栄養膜細胞は存在しないため,解剖学的背景も踏まえて上記の診断とした.妊娠・出産歴がないため,本症例は非妊娠性絨毛癌に相当し,その由来としては卵巣の胚細胞が疑われたが,剖検時に卵巣が適切に摘出されず,組織学的に検討することができなかった.(平田 暁大・柳井 徳磨)
[参考文献]
Ulbright TM, 2005. Germ cell tumors of the gonads: a selective review emphasizing problems in differential diagnosis, newly appreciated, and controversial issues. Mod. Pathol. 18 Suppl 2: S61-79.