[動物]ブタ,雄,101 日齢.
[臨床事項]症例は繁殖母豚 500 頭規模の一貫経営農場での飼育豚で,病性鑑定を目的として鑑定殺された.鑑定殺時には起立不能,全身性の痙攣及び眼球震顫を呈していた.
[剖検所見]大脳及び小脳で硬膜の白濁並びに脳溝部軟膜の混濁(図 1)が認められ,橋右外側から右小脳脚では膿瘍の形成が見られた.その他の臓器では全身リンパ節の腫大,右肺中葉の一部で暗赤色調無気肺領域が認められた.
[組織所見]髄膜ではリンパ球・マクロファージなどの単核細胞を主体とする炎症細胞の中等度から重度浸潤が認められた(図 2).小脳皮質及び髄質では単核細胞の囲管性細胞浸潤及び小肉芽腫が多数認められ,多核巨細胞の浸潤も伴っていた(図 3).小肉芽腫は CD3 陽性の T リンパ球と lysozyme 陽性のマクロファージからなり(図 4, 5:連続切片),多核巨細胞の浸潤は髄膜,皮質分子層,顆粒層及び髄質で広く認められた.豚サーコウイルス 2 型( PCV2 )に対する免疫染色及び in situ hybridization ( ISH )では,前者で陰性となり,後者では血管周囲や髄膜に浸潤する単核細胞,多核巨細胞及び小肉芽腫において PCV2 陽性像が認められた(図 6, 7).また小脳乳剤の PCR あるいは RT-PCR によるウイルス学的検査では PCV2 陽性, PRRS ウイルス, オーエスキー病ウイルス, 日本脳炎ウイルス, ブタテシオウイルスは陰性であった.細菌学的検査では橋・小脳の膿瘍及び大脳からアルカノバクテリウム・ピオゲネスが検出された.また TUNEL 法によりアポトーシスの検出を試みたところ,小脳皮質及び髄質に見られる小型濃縮核及び髄膜や血管周囲に浸潤するマクロファージ細胞質において多数の陽性像が認められた.その他臓器ではリンパ組織におけるリンパ球の減少と多核巨細胞を伴う肉芽腫性炎,間質性・カタル性気管支肺炎,多核巨細胞を伴う間質性腎炎などが認められ,それら臓器においても PCR, ISH 及び免疫染色により PCV2 が検出された.
[診断]小肉芽腫性病変を伴う豚のリンパ・組織球性髄膜脳炎( PCV2 感染の関与を疑う)
[考察]本症例は PCV2 の全身性感染の病態を示しており,中枢神経病変はその一部と考えられた.また PCV2 に対する免疫染色と ISH の結果の相違は検出感度の違いによるものと推察された.PCV2 感染に起因する中枢神経病変の報告は少なく,本例は既報と比較して巨細胞浸潤が顕著であり,単核細胞浸潤を主体とする髄膜脳炎が重度であった.この要因としては,病態の経過や提出標本近傍の膿瘍で検出されたアルカノバクテリウム・ピオゲネス感染の関与も考えられた.(鈴木 敬之)
[参考文献] 1)Correa, A. M., Zlotowski, P., de, Barcellos, D. E., da, Cruz, C. E. and Driemeier, D. 2007. Brain lesions in pigs affected with postweaning multisystemic wasting syndrome. J Vet Diagn Invest. 19(1): 109-112.2)Seeliger, F. A., Brugmann, M. L., Kruger, L., Greiser-Wilke,
I., Verspohl, J., Segales, J. and Baumgartner, W. 2007. Porcine circovirus
type 2-associated cerebellar vasculitis in postweaning multisystemic wasting
syndrome (PMWS)-affected pigs. Vet Pathol. 44(5): 621-634.
3)Drolet, R., Cardinal, F., Houde, A. and Gagnon, C. A. 2011. Unusual central nervous system lesions in slaughter-weight pigs with porcine circovirus type 2 systemic infection. Can Vet J. 52(4): 394-397.
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