[動物]ヒツジ,チェビオット種,雌,推定 13 歳.
[臨床事項]2012 年 4 月,本症例の血液サンプルよりマエディ・ビスナウイルス( MVV )抗体と同遺伝子が検出され,同年 10 月に本学にて病理解剖を行った.剖検前には特に臨床症状は確認されなかった.剖検時,左側鼻粘膜と後鼻孔粘膜の限局性肥厚や,右肺前葉の限局性無気肺,左側副腎の暗赤色腫瘤などがみられたが,大脳,小脳,脊髄には肉眼的に著変は認められなかった.
[組織所見]髄膜において,限局性にリンパ球や形質細胞などの浸潤が認められた(図 1, 2).背索や側索などでは軽度に空胞の形成がみられ,一部の領域では肥大した星状膠細胞も認められた.クリューバー・バレラ染色では,白質において限局的な脱髄巣がみられた.免疫組織化学的染色では,髄膜に浸潤がみられた円形細胞は,CD3(図 4a)や CD20 (図 4b)などにそれぞれ陽性を示した.炎症性細胞浸潤は,頸髄,胸髄,腰髄などの髄膜にそれぞれ限局していたが,第四頸髄から腰髄に至る広い範囲で認められた.一方,白質の空胞形成・髄鞘崩壊などがみられたのは頸髄,胸髄,腰髄のそれぞれ一部の領域のみであった.
[診断]マエディ・ビスナウイルス感染羊の胸髄における非化膿性髄膜炎
[考察]マエディ・ビスナは,レトロウイルス属の MVV 感染に起因する羊の遅発性感染症であり,慢性進行性肺炎や脳脊髄炎を引き起こすことが知られている.本疾患はオーストラリアやニュージーランドを除く世界各国に発生していると推察されているが,日本での発生はほとんど報告されていない.Benavides らは MVV による脊髄病変のタイプとして,囲管性細胞浸潤に特徴付けられる vascular pattern,白質の崩壊を特徴とする malacic pattern,実質への組織球浸潤がみられる infiltrative pattern の三つに分類しているが,本症はいずれの分類にも一致せず,主な病変が髄膜に限局していたことから,MVV 感染と関連した初期病変と考えられた.羊では中枢神経系にみられる病変が髄膜炎など脊髄に限局している場合,マエディ・ビスナウイルス感染症も鑑別疾患の一つとして検討すべきと考えられた.(佐々木 淳)
[参考文献] Benavides, J., et al. 2006. Natural Cases of visna in sheep with myelitis as the sole lesion in the central nervous system. J Comp Pathol.
134: 219-230.
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