[動物]マウス,ICR [Crlj:CD1(ICR)],雌,77 週齢.
[臨床事項]本例は農薬の発がん性試験に用いた投与群の動物で,投与 72 週時に全身状態悪化のため切迫殺されたものである.当該腫瘤は投与 68 週より臨床的にも腹部の腫瘤として触知され,切迫殺時の大きさは 30×15×10 mmであった.
[剖検所見]右腹側皮下から腹腔内にかけて 45×30×25 mmの白色腫瘤が認められた.ホルマリン固定後の割面は,白色充実性で一部腫瘤の周辺部では空隙が観察された.
[組織所見]皮下織から腹腔内にかけて以下のように 4 つの増殖パターンを示す腫瘍組織を認めた.@多角形腫瘍細胞が類骨様の好酸性基質を伴い充実性に増殖(図 1).一部の細胞は小空胞を有す.A短紡錘形腫瘍細胞が好酸性細胞質を有する多核細胞を伴い不規則なシート状に増殖(図 2).B紡錘形腫瘍細胞が束状に増殖(図 3).C短紡錘形腫瘍細胞が嚢胞状に増殖(図 4).特殊染色では,@でみられた類骨様基質はわずかにコッサ反応陽性(図 5)で,腫瘍細胞の小空胞はオイル赤 O 陰性だった(図 6).免疫染色では,いずれの腫瘍細胞も同様の染色態度を示し,vimentin,PCNA,osterix(図 7)に陽性,SMA に弱陽性(図 8)であった.Aでみられた多核細胞は desmin 陽性,vimentin 弱陽性,osterix 陰性だった.(図: Reproduced with permission of the Japanese Society of Toxicologic Pathology from Ito T, et al. Spontaneous extraskeletal osteosarcoma with various histological growth patterns in the abdominal wall of an ICR mouse. J Toxicol Pathol 29: in press, 2016)
[診断]骨外性骨肉腫
[考察]本腫瘍は顕著な多形性,腹腔内への強い浸潤性,高い増殖活性を有しており,骨芽細胞のマーカー osterix に陽性で,類骨基質を認めるため,悪性の骨腫瘍が疑われた.しかし,肉眼・組織学的検査いずれにおいても既存の骨との連続性が認められなかったことから「骨外性骨肉腫」と診断した.上記Aでみられた多核細胞は免疫染色結果から腫瘍細胞ではなく再生性の横紋筋と考えた.本発がん性試験では同様の腫瘍発生はなく,自然発生性の症例と考えられる.マウスにおける自然発生性の骨外性骨肉腫は極めて稀で,多彩な増殖パターンを認める点が本症例の特徴であった.本腫瘍の由来は不明であるが,腫瘍細胞が SMA 弱陽性であることから,過去の報告1)2)を参考に血管周皮細胞あるいは筋線維芽細胞であると推察した(伊藤 強).
[参考文献] 1) Wijesundera KK, et al. 2013. J Toxicol Pathol. 26: 309-312.
2) Hemingway F, et al. 2012. Virchows Arch. 460: 525-534.
|