[動物]ネコ,アメリカンショートヘアー,避妊雌,10 歳.
[臨床事項]2013 年 10 月に毎日嘔吐しているとの主訴で開業医を受診した.触診で腹部中央に 5 p 大の腫瘤が触知され,超音波検査でも 5.2×2.8 p に至る腫瘤が確認された.試験開腹では,小腸壁や腸間膜において多発性の腫瘤が認められ,その一部が当研究室へ送付された.術後,プレドニゾロンによる治療が行われたが一般状態が悪化し,12 月に安楽殺処置がなされた.
[肉眼所見]摘出された腫瘤は 1.8×1.5×0.9 p をはじめとする乳白色硬結腫瘤であり,小腸の割面では腸管壁の顕著な肥厚も認められた(図 1).
[組織所見]漿膜部腫瘤(図 2)および小腸の粘膜下組織において,膠原線維の網目状の増生が認められた.膠原線維間では,細胞質が微細顆粒状を呈する円形から多角形,紡錘形を呈する異型細胞や好酸球,線維芽細胞などの増殖が認められた(図 3).筋層の筋線維間においても,異型性を示して微細顆粒を有する細胞の浸潤性増殖がみられ,筋層間神経叢への浸潤像も認められた.トルイジンブルー染色により微細顆粒を有する細胞が異染性を示したことから,それらは肥満細胞と考えられた(図 4).免疫組織化学的染色では,一部の肥満細胞や線維芽細胞が Ki-67 に陽性を示した.CD3,CD20,Lysozyme に陽性を示すそれぞれの細胞は,病変部においてごくわずかに認められるのみであった.グラム染色では有意な細菌は認められなかった.
[診断]猫消化管硬化性肥満細胞腫 Feline intestinal sclerosing mast cell tumor
[考察]本症例では,異型性を示す肥満細胞の筋線維間や神経叢への浸潤が特徴であり,一部で Ki-67 に陽性を示すことから腫瘍性病変であると考えられた.さらに,小柱状の膠原線維増生を伴う特徴的な組織像を示すことから,Halsey らの報告する猫消化管硬化性肥満細胞腫と一致するものと考えられた.猫消化管硬化性肥満細胞腫は猫に特異的な消化管腫瘍と考えられており,密な膠原線維性小柱間における円形から多角形の腫瘍細胞増殖,好酸球浸潤などの特徴的な組織像を示す.本症と類似した組織像を示す疾患として,猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症が知られているが,この疾患は細菌感染や異物などに対する肉芽腫性反応に起因すると考えられており,本症例ではグラム染色で細菌等は検出されず,肉芽腫性病変なども認められなかった.(藤井 知世・佐々木 淳)
[参考文献] 1) Craig, L. E., et al. Vet. Pathol., 2009. 46: 63-70.
2) Halsey, C. H. C, et al. Vet. Comp. Oncol., 2010. 8: 72-9.
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