[動物]レッサーパンダ,雄,9 歳.
[臨床事項]2012 年 12 月にある動物園に導入され,その時点で全身に皮膚病変を認めた.2013 年 1 月頃,抗生剤により皮膚病変は改善されたが,リンパ節の腫大が認められた.投薬を継続したが,4 月死亡した.
[肉眼所見]被毛粗剛で高度に削痩していた.肝臓全葉において直径 5 〜 30 o 大の黄〜乳白色結節の多発,左側腎臓割面の白色巣,黄褐色透明腹水,肺各葉に直径約 3 mm 大の乳白色結節が認められた.体表および腹腔内リンパ節,特に腋窩リンパ節は高度に腫大し,割面は乳白色を呈していた.
[組織所見]肝臓全葉において,多巣状性に肉芽腫病変を認めた.肉芽腫中心部は壊死し,周囲を類上皮細胞,リンパ球,好中球が取り囲むように浸潤し,一部多核巨細胞が散見された(図 1).チール・ネルゼン染色において,主に壊死巣で陽性菌を確認した(図 2).門脈域では,大型淡明核と好酸性細胞質を有するリンパ球様腫瘍細胞の増殖を認め,一部ではリンパ管や実質内にも浸潤していた.同細胞の異型性は強く,核分裂像を多数認め,明瞭な核小体を有していた(図 3).免疫組織化学的染色において,腫瘍細胞は,CD3(図 4),Ki-67 および PCNA の各抗体にいずれも陽性を示した.一方,CD20 抗体に陰性を示した.その他臓器では,肺,左側腎臓,体表ならびに腹腔リンパ節において上記と同様の所見を認めた.また,右側腎臓ではリンパ腫病変のみを,脾臓では肉芽腫性炎のみを確認した
[診断]レッサーパンダにみられた T 細胞リンパ腫を伴う抗酸菌による肉芽腫性肝炎(レッサーパンダにみられた T 細胞リンパ腫を伴う非結核性抗酸菌症)
[考察]特殊染色結果より,肉芽腫は抗酸菌感染に起因することが示唆された.肉芽腫病変部から,非結核性抗酸菌の一種 Mycobacterium gastri が分離・同定された.免疫組織化学的染色結果より,異型リンパ球は増殖活性の高い T 細胞由来の腫瘍細胞であることが明らかとなった.肉芽腫周囲では,高度に線維化していたことから,M. gastri に感染後,リンパ腫を発症したと推察された.ヒトでは,慢性炎症がリンパ腫の発症要因に挙げられており,本症例についても同様の病理組織発生機序が考えられた.ヒトでは,B 細胞リンパ腫または T 細胞リンパ腫を伴う抗酸菌症が報告されているが,動物ではフェレットの一例のみであり,本症例は貴重な症例と考え出題した.(福家 直幸・平井 卓哉)
[参考文献] Saunders, G. K., Thomsen, B. V. 2006. Lymphoma and Mycobacterium avium infection in a ferret (Mustela putorius furo). J. Vet. Diagn. Invest. 18(5) : 513-515.
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