No.1115 イヌの大腿部腫瘤

摂南大学


[動物]イヌ,パピヨン,雄,11 歳 8 ヶ月齢.
[臨床事項]以前より自噛していた左大腿部に,直径 12×16 o 大で痂皮を伴う腫瘤が 1 個形成された.カラーを装着し,抗生剤及びステロイド剤の外用薬で治療したが,良化しなかった.約 2 年で腫瘤が増数したため,触知可能な範囲の全腫瘤を摘出し,病理検査に供した.
[組織所見]触知可能な腫瘤が真皮から皮下組織に形成され,大型の腫瘤周囲の皮下組織に小さな腫瘤が複数認められた.各腫瘤では様々に腫大した末梢神経束が観察された(図 1, 2).腫大神経束周囲ではしばしば神経周膜が肥厚し,膠原線維も増生していた(図 3;マッソントリクローム染色).腫大神経束は神経線維と腫大したシュワン細胞の増殖で構成されており,準超薄切片のトルイジンブルー染色により,肥大したシュワン細胞内に埋もれるように,散在性に有髄神経を認めた(図 4).免疫染色では,腫大神経束内は neurofilament 陽性(図 5)と GFAP 陽性(図 6)の成分が同程度に認められた.肥厚した神経周膜は type W collagen と nerve growth factor receptor 陽性(図 7)を示した.神経周膜内には GFAP と PGP 9.5 陽性の小神経束も含まれ,一部の大きな腫瘤ではこれらが共に周囲の線維化領域に伸長していた.腫瘤を構成するいずれの成分も ki-67 に陰性を示した.
[診断]神経束の腫大及び神経周膜の過形成を伴う多発性外傷性神経腫 (Multiple traumatic neuroma with swollen nerve fascicles and perineurial hyperplasia)
[考察]当初腫大した神経束をルクソールファーストブルー染色にて無髄神経と判断したが,準超薄切片のトルイジンブルー染色にて髄鞘をしばしば認め,有髄神経と肥大したシュワン細胞と考えられた.神経束内の変化は外傷性神経腫に類似しており,神経束周囲の変化は外傷性神経腫の一亜型である Morton's 神経腫に類似していた.臨床所見及び組織所見より,慢性的な自噛を原因とする特異な組織像を示す外傷性神経腫と考えられた.(阿野直子)
[参考文献]
1) Gross, T. L, Carr, S. H. 1990. Amputation neuroma of docked tails in dogs. Vet Pathol 27: 61-62.
2) Weiss SW GJ 2013. Benign tumors of peripheral nerves. pp. 784-854. In: Enzinger and Weiss's Soft Tissue Tumors, 6th ed. St. Louis. Mosby.