No.1116 イルカの背部皮膚腫瘤

大阪府立大学


[動物]バンドウイルカ (Tursiops truncatus),雄,推定 17 歳齢.
[臨床事項]捕獲後,水族館で飼育されていた個体で,搬入時より背部皮膚に創痕が認められていた.背部皮膚の膨隆が急速に拡大し,約 25×25 cmに及ぶカリフラワー状腫瘤を形成した(図 1).フルコナゾール等による治療を行うも,病変は拡大傾向を示し,急速に元気消失と呼吸速迫を呈して死亡した.
[肉眼所見]背部皮膚には,灰白色カリフラワー状腫瘤が多数形成されていた.ホルマリン固定後の割面では,表皮の乳頭状増殖が認められ,表皮直下から真皮では黄白色〜黄色の結節性病巣が多発していた(図 2).
[組織所見]肉眼的に乳頭状を呈していた部分では,表皮の乳頭状過形成と過角化が認められ,真皮・皮下組織では,主に多核巨細胞からなる肉芽腫性炎症の像を呈していた(図 3).また,巨細胞やマクロファージの細胞質内に,多数の厚い壁を有する酵母様細胞(直径 10 μm前後)が孤在もしくは細い頸管によって連鎖して認められた(図 4,挿入図はグロコット染色).
[診断]表皮の乳頭状増殖を伴う真菌性肉芽腫性皮膚炎(ラカジオーシス様疾患) Fungal granulomatous dermatitis with papillary epidermal hyperplasia (Lacaziosis-like disease)
[考察]本症例で認められた肉眼および組織所見は,ヒトとイルカにおいて報告されているラカジオーシス(原因真菌:Lacazia loboi)のものと一致した.ラカジオーシスは,アマゾン川流域の風土病として知られていた慢性肉芽腫性皮膚真菌症である.本症例の原因真菌の遺伝子配列は既報の L. loboi と完全には一致しなかったが( 84 % の相同性),イルカではヒトの症例とは異なった遺伝型の菌種が原因である可能性もあり,発生地域や動物種を考慮した上での今後の解析が待たれる.(田中美有・山手丈至)
[参考文献]
Ueda et al. Two Cases of Lacaziosis in Bottlenose Dolphins (Tursiops truncatus) in Japan. Case Reports in Veterinary Medicine, vol. 2013, Article ID 318548, 9 pages, 2013.