[動物]豚,4 週齢.
[臨床事項]本症例は口蹄疫ウイルス(FMDV)の経口感染実験に供された低投与量群(103TCID50 / mL)の 1 頭である.接種 7 日目から主蹄蹄冠部に水疱形成が確認された(図 1).その後水疱は四肢すべての趾間皮膚,副蹄蹄冠部および蹄球皮膚にもみられるようになった.接種 9 日目以降は跛行を示し,歩くのを嫌がった.接種 14 日目に安楽殺が行われた.
[剖検所見]四肢の蹄周辺皮膚の水疱形成と水疱破裂後の病変,舌の潰瘍形成,浅頚リンパ節の腫大が確認された.その他著変は認められなかった.
[組織所見]蹄球の皮膚では角化層/角化層下に水疱の形成が見られた(図 2.Bar=1mm).有棘細胞層表層の有棘細胞は風船様変性を示し,配列の不整も確認された.有棘細胞の風船様変性はアザン染色でより明瞭に確認された(図 3. Bar=200μm).真皮の血管周囲には単核細胞,好中球の浸潤が認められた.抗 FMDV モノクローナル抗体を用いた免疫染色の結果,水疱病変部に FMDV のウイルス抗原が確認された(図 4.Bar=100 μm).
[診断]表皮内水疱性皮膚炎(豚の実験的口蹄疫)
[考察]口蹄疫は FMDV によって引き起こされる牛や豚といった偶蹄類の伝染病である.この病気は強い感染力,組織毒性を持ち,ひとたび発生がおこれば直接的・間接的な経済的損失が大きいため,国際的にも家畜衛生上最も問題とされる家畜伝染病である.このウイルスは血清型や株の違いに関わらず,総じて同じような部位,すなわち口腔内,吻部,蹄周囲皮膚に水疱病変を形成する特徴を持つ.またその肉眼像や予後についても総じて同じ特徴を有する.水疱は甚急性に形成された後に破裂し糜爛や潰瘍を形成し,感染家畜に歩行困難,食欲不振を引き起こす.本症例においても同様の症状が確認された.口蹄疫の水疱病変は有棘細胞の壊死に引き続いて有棘細胞層に形成されることが多い.本症例では水疱病変発症後 1 週間近く経ってから解剖・病理組織検査を行ったために,有棘細胞層に形成された病変が表皮のターンオーバーに従って角化層/角質層下にみられたのではないかと考えられた.また感染ウイルス量が少なかったため,有棘細胞層に形成された病変が重度に進行することなく角化層/角質層下に移行したのではないかと考えられた.(山田 学)
[参考文献]
1)Alexandersen, S. et al. J Comp Pathol. 2003 129; 1-36.
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