No.1119 ネコの歯肉部腫瘤

大阪府立大学


[動物]ネコ,雑種,去勢雄,6 歳齢,体重 8.9 kg.
[臨床事項]右上顎の上臼歯付近の歯肉部に,やや硬結感のある白〜淡桃色腫瘤(図 1)を認め,炭酸ガスレーザーによる切除術を実施した.
[肉眼所見]腫瘤は 1.5×0.8×0.8 cm 大で,割面は白色充実性であった.
[組織所見]腫瘤は被包化されておらず,過形成性の粘膜上皮で覆われ,広範な潰瘍を伴っていた(図 2).表層部では,血管の豊富な線維性組織の増生と多数の多核巨細胞が認められた(図 3).深部では,類円形〜紡錘形の間葉系細胞の充実性増殖,多核巨細胞の出現,および線維増生が認められ(図 4),一部では類骨形成もみられた.全ての多核巨細胞と一部の単核細胞は,TRAP 染色陽性であった(図 3:挿入図).
[診断]末梢巨細胞性肉芽腫(Peripheral giant cell granuloma)
[考察]Peripheral giant cell granuloma は,以前は Giant cell epulis と呼ばれた歯肉の非腫瘍性病変で,破骨細胞の性質を有する多核巨細胞の出現を特徴とする.今回の症例は,表層部ではその典型的な組織像を示す一方で,深部では密な線維増生を伴う点が特徴的であった.また,日本語診断名については,WHO 腫瘍組織診断名の日本語訳案にならい,“末梢巨細胞性肉芽腫”としたが,今後,“周辺性”や“辺縁性”といった用語も検討する必要がある. (田中美有・井澤武史)
[参考文献]
1) de Bruijn N.D., Kirpensteijn J., Neyens I.J., Van den Brand J.M., van den Ingh T.S. 2007. A clinicopathological study of 52 feline epulides. Vet.Pathol. 44: 161-169.
2) Desoutter A.V., Goldschmidt M.H., Sanchez M.D. 2012. Clinical and histologic features of 26 canine peripheral giant cell granulomas (formerly giant cell epulis). Vet.Pathol. 49: 1018-1023.