No.1121 イヌの肝臓

山口大学


[動物]イヌ, ラブドール・レトリーバー, 去勢雄, 1 歳 8 ヵ月齢.
[臨床事項]本例は発熱, 食欲不振および嘔吐を主訴に山口大学動物医療センターに来院した. 血液検査では非再生性貧血, 白血球増多症および血小板減少症を認めた. 血液塗抹では円形核と好塩基性細胞質を有する異型細胞が散見され, 骨髄穿刺では全有核細胞成分の半数以上は芽球様細胞で占められていた. これらの芽球様細胞には細胞質の突出およびブレブ様構造が観察された. また, ペルオキシダーゼ染色および非特異的エステラーゼ染色に陰性であった.
[剖検所見]大腿骨骨髄は淡赤色を示した. 脾臓, 縦隔リンパ節および膵十二指腸リンパ節が腫大していた. 脾臓には暗赤色巣が散見された. 肝臓および肺は貧血調を呈し一部に暗赤色巣が見られた.
[組織所見]本例の肝臓には腫瘍細胞の浸潤増殖像が認められた(図 1). 腫瘍細胞は細胞質の突出(図 2)およびブレブ様構造(図 3)といった巨核芽球系細胞に特徴的な形態を示した. また, 巨核芽球様細胞が散見された. 免疫組織学的に, 多くの腫瘍細胞は c-kit(図 4)および von Willebrand factor(図 5)に陽性を示した.前者は約 39 %,後者は約 29 % の腫瘍細胞が陽性を示した. また, 電子顕微鏡学的に多くの腫瘍細胞は発達した分界膜(図 6 矢印)およびアルファ顆粒(図 6 矢頭)を有し, 巨核芽球系細胞の特徴を示した. 提出標本と同様の組織像は, 骨髄, 縦隔リンパ節, 膵十二指腸リンパ節, 脾臓, 胸腺および肺に認められ, 骨髄中の腫瘍細胞は提出標本と同様の免疫組織学的ならびに電子顕微鏡学的所見を示した.
[診断]巨核芽球系細胞への分化を特徴とする白血病の肝臓転移巣(疾患名: 急性巨核芽球性白血病)
[考察]急性巨核芽球性白血病は, 腫瘍細胞の 20 % 以上が芽球様の性質を示し, その半分以上が巨核芽球系細胞への分化を示すものとされる. 本例では, 骨髄を含む諸臓器に腫瘍細胞が認められた.免疫組織学的検索の結果に加え, 組織学的ならび電子顕微鏡学的に巨核芽球系細胞の特徴を有する腫瘍細胞を多数認めたため上記の診断とした. 研修会では肝臓における髄外造血が混在する可能性が指摘された. (櫻井 優・森本將弘)
[参考文献]
1) Histological classification of Hematopoetic tumors of Domestic Animals, 2nd ed, 2002
2) Tumors in Domestic animals, 4th ed, 2002