No.1122 ラットの小腸腫瘤

株式会社LSI メディエンス


[動物]ラット,F344/DuCrlCrlj,雌,115 週齢.
[臨床事項]本例はがん原性試験のための背景データ集積試験に供されたラットで,計画解剖されるまで特筆すべき臨床症状は認められなかった.
[肉眼所見] 空腸壁に直径 2 cm 大の腫瘤が認められた.割面は乳白色〜淡桃色で,腫瘤中央部は壊死に陥っていた.その他の臓器に肉眼的病変は認められなかった.
[組織所見]腫瘤は空腸壁内に認められ,内腔側は広範に亘り壊死に陥っていた.腫瘤内では,短紡錘形〜類円形の細胞が密に増殖していた.増殖パターンは索状あるいは小胞巣状で,細胞境界不明瞭な上皮様の細胞がシート状に配列する部分も認められた(図 1).多くの有糸分裂像が観察された.鍍銀染色では,好銀線維がこれらの増殖細胞を数個〜数十個単位で取り囲む胞巣状あるいは索状の配列が明瞭に認められた(図 2).透過型電子顕微鏡検査では,細胞間接着装置であるデスモソームが観察された(図 3 矢印,N: 核).神経内分泌顆粒を染色する Sevier-Munger 法では,少数ながら陽性顆粒を有する増殖細胞が認められた(図 4 矢印,Inset : 同切片上の internal positive control である腸管上皮層の神経内分泌細胞).グリメリウス染色では陽性顆粒を有する増殖細胞は認められなかった.免疫染色では,多くの増殖細胞が Vimentin 陽性,部分的に Cytokeratin wide と PGP9.5(図 5)に陽性を示した.αSMA,Desmin,c-kit,CD34,S-100,Synaptophysin,NSE,Iba-1,PNL2 はいずれも陰性であった.
[診断]神経内分泌細胞への分化を伴う未分化癌
[考察]HE 染色では上皮性か非上皮性かの判断が困難であったが,鍍銀染色の染色パターンおよび電子顕微鏡検査でデスモソームが認められたことから本腫瘍は上皮性腫瘍であると判断された.さらに Sevier-Munger 法で陽性顆粒を有する細胞や PGP9.5 抗体に陽性を示す細胞が認められたことから,一部の腫瘍細胞は神経内分泌細胞への分化を示していると考えられた.しかし,大多数の腫瘍細胞は形態学的にも免疫組織化学的にも特徴に乏しいため,上記診断名に至った.(山田直明)