No.1125 セイウチの横隔膜嚢胞

岩手大学


[動物]セイウチ (Odobenus rosmarus),雌,推定 11 歳.
[臨床事項]2014 年 1 月食欲不振のため健胃剤が投与された.同年 3 月 3 日動作緩慢となり,翌日摂餌後プール内で嘔吐した.翌 3 月 5 日朝死体で発見された.
[肉眼所見]横隔膜腹腔面筋部背側に腹大動脈に隣接して単房性の嚢胞が 1 個認められた(図 1).内容は白色粘稠で,嚢胞と他臓器との連絡は見られなかった.
[組織所見]嚢胞は多列線毛円柱上皮により内張りされ (図 2),嚢胞壁には気管支腺や α-SMA 陽性の平滑筋 (図 3),軟骨,気管支・肺胞様構造が認められた.内張り上皮層にはアルシアンブルー染色陽性の杯細胞が混在していた (図 4).気管支や肺胞様構造の内腔には PAS 陽性の好酸性粘液やリゾチーム陽性の泡沫状マクロファージが滲出し,ときおりリンパ球の浸潤も見られた (図 5).嚢胞壁には弾性型動脈や筋型動脈,静脈が存在した.
[診断]セイウチの横隔膜にみられた肺葉外肺分画症 Extralobar pulmonary sequestration in the diaphragm of a walrus
[考察]肺葉外肺分画症は,胎生期の肺の発生異常と考えられている.本症と類似した組織像を示す病変として気管支性嚢胞 bronchogenic cyst があげられる.気管支性嚢胞も肺葉外肺分画症と同様に,肺の発生異常によるとされているが,本症では肺胞様構造が見られたことや肺との連絡がなく体循環系からの血液供給が示唆されたことから上記の診断とした.動物の肺葉外肺分画症の発生報告はこれまでのところ犬の1例のみである.ヒトの本症ではその多くが胸郭内に発生する.本例は動物種,発生部位の点で興味深い症例と思われる.(渡部 大容・落合 謙爾)
[参考文献]
1) Kheirandish, R., Azizi, S., Alidadi, S. 2012. A case report of extralobar pulmonary sequestration in a dog. Asian Pac J Trop Biomed 2: 333-335.
2) Govaerts, K., Van Eyken, P., Verswijvel, G., Van der Speeten, K. 2012. A bronchogenic cyst, presenting as a retroperitoneal cystic mass. Rare Tumors 4: e13.