No.1126 シベリアオオカミの肺腫瘤

東京農工大学


[動物]シベリアオオカミ,17 歳,メス.
[臨床事項]某動物園にて飼育されていたが,2014 年 6 月 18 日,死亡しているのを発見された.死亡時,泡沫状嘔吐物を床上に認めた.死亡前日までの栄養状態は良好であった.
[肉眼所見]右肺がほぼ腫瘤に置換され,胸壁に癒着していた.
[組織所見]腫瘍は細胞質の乏しい小型の均一な腫瘍細胞のリボン状,索状の増殖巣からなり,一部では充実性増殖や管腔様構造をとり内腔に粘液 (PAS,Alcian blue 陽性)を有する部分もみられた(図 1).核分裂像は認められなかった.壊死,うっ血および血栓形成が散見された.免疫染色および特殊染色により,腫瘍細胞は AE1/AE3 陽性,Vimentin 陰性を示し,Chromogranin A (図 2),NSE (図 3),NCAM に一部陽性,TTF-1 に散在性に陽性を示した(図 4).PCNA 陽性細胞率は 1.3 % と低かった.Synaptophysin,グリメリウス染色,PGP9.5,VIP,Glucagon,Somatostatin,Insulin および S-100 は陰性であった.
[診断]神経内分泌腫瘍 Neuroendocrine tumor
[考察]動物の肺腫瘍の WHO 分類によると1,本症例は形態学的特徴と神経内分泌マーカーに対する陽性所見から,小細胞癌あるいは神経内分泌腫瘍に相当すると考えられた.ヒトの小細胞癌では,高い増殖活性と TTF-1 高陽性率が低・中グレードの神経内分泌腫瘍(カルチノイド)との鑑別点とされている2.動物の肺神経内分泌系腫瘍においてそれらの詳細な情報がないものの,本症例は低い増殖活性と TTF-1 低陽性率から,神経内分泌腫瘍と診断した.切片上で腫瘍と肺実質との連続性が明瞭でないとの指摘を受けたが,TTF-1 陽性を示す甲状腺に異常はなく,肺由来の可能性が高いと判断した.(白木彩子・吉田敏則)
[参考文献]
1) Dungworth, D.L. et al., 1999. Second series, Volume VI. pp.16-21. AFIP, Washington DC.
2) Beasley, M.B. 2008. Diag Histopathol 14:465-473.