[動物]ウシ,ホルスタイン種,10 週齢.
[臨床事項]牛ヘルペスウイルス1(BoHV-1)の 106.5 TCID 50/ml 20 ml を子牛の鼻腔内にネブライザーを用いて接種し,3週後に安楽殺した。子牛は接種後 2 日目から体温が上昇し始め,5 日目で 40.5℃ に達した後徐々に緩解し 2 週目に平熱に戻った.また,接種後 2 日目から約2週間,軽度の発咳と鼻漏が認められ,1 週目から抗 BoHV-1 ELISA 抗体の上昇が確認された.
[剖検所見]左・右肺の前葉と右中葉に限界明瞭な無気肺病巣が観察されたが,その他の諸臓器に著変は認められなかった.提出標本は左肺無気肺病巣隣接の後葉前部から作製した.
[組織所見]無気肺病巣では,化膿性気管支肺炎と一部に気管支間質性肺炎が所見された.提出標本には,主要病変として1)粘膜上皮の増生とリンパ球,好中球浸潤の顕著な気管支炎,2)細気管支腔内に突出するポリープ様肉芽組織,3)肺胞内に散在する合胞体と炎症細胞の軽度な滲出および水腫などが広範に認められ,他に異物巨細胞性の小肉芽腫が散見された.本症例の特徴病変である細気管支のポリープ様肉芽組織(図 @)はそれらの切断方向や部位により様々な形態と特徴を示し,多くは細気管支腔を狭小化〜閉塞し周囲にリンパ球浸潤を伴っていた(図 A〜図 C).肉芽組織は細気管支粘膜上皮から伸長した上皮細胞により覆われていたが,多くは metaplastic な立方〜扁平上皮であった(図 D).間断連続切片を作製し,細気管支腔内でのポリープ様肉芽組織の形態発生を調べたところ,それらは一部が細気管支腔内の化膿性滲出物と接しながら,細気管支およびその分枝へと繋がり,更に末梢の肺胞管近くまで連続していた.また,終末気管支腔や肺胞管,肺胞などにおいて認められた大小様々な合胞体(図 E)は,抗サイトケラチン抗体 CK8 に陰性でマクロファージ由来と思われ,抗 BoHV-1 抗体に陽性反応を示し(図 F)、電顕検査で細胞内に多数のヘルペスウイルス粒子(図 G)が検出されたことなどから BoHV-1 感染により形成されたものと考えられた.
[診断]BoHV-1 感染牛に見られた閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis obliterans in a calf infected with bovine herpesvirus 1)
[考察]閉塞性細気管支炎の原因として,ウイルス感染や細菌感染時に滲出する好中球,有毒ガスあるいは毒素,寄生虫感染,移植肺に対する拒絶反応,などによる細気管支粘膜の傷害が挙げられている.腔内に形成されるポリープ様肉芽組織は,粘膜傷害と腔内滲出物に対する一種の修復・除去反応と理解され,特に牛ではウイルスおよび細菌感染による慢性気管支肺炎の病巣内でしばしば所見される変化の一つとされている.細気管支粘膜上皮が傷害を受けると,残存する上皮細胞や粘膜固有層の線維芽細胞が様々なサイトカインや接着分子などを発現して傷害部位あるいは滲出物付着部位に細胞外マトリックスを形成し,それに対して線維芽細胞や毛細血管が増殖して表面を既存の上皮細胞が伸展してきて覆い,腔内にポリープ様肉芽組織が形成されると考えられている.従って,本症例では BoVH-1 と細菌の二次感染などによる粘膜上皮細胞への傷害がポリープ様肉芽組織形成の起因になったと推測された.(布谷鉄夫)
[参考文献] 1) Caswell, J. L. and Williams, K. J. 2007. Pathology of Domestic Animals, Vol. 2, Saunders. 2) Lopez, A. 2012. Pathologic Basis of Veterinary Disease. Elsevier.
3) Sacco, O. et al. 2004. Epithelial cells and fibroblasts: structural repair and remodeling in the airways. Paediatr. Respir. Rev. 5(Suppl A): 35-40.
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