No.1133 ウマの下垂体腫瘤

鹿児島大学


[動物]ウマ,サラブレッド,雄,21 歳 5 ヵ月齢.
[臨床事項]3 ヵ月前から被毛が長い状態が継続し,デキサメサゾン抑制試験陽性,血中 ACTH 濃度は同居馬に比べて著しく高い値を示した(259 pg/ml).起立不能を呈し,内科的治療を実施するも改善せずに死亡したため,病理解剖に供された.
[剖検所見]下垂体は腫大(3.8×3.0×2.2 cm)し,球形で下垂体窩から逸脱しており(図 1 矢印),割面は充実性分葉状で灰白色を呈する中間葉が大部分を占めていた(図 2).副腎の腫大はみられなかった.
[組織所見]下垂体においては組織学的に中間葉の細胞由来腫瘍細胞が充実性に増殖しており,正常な末端部や神経葉は辺縁に圧排されていた(図 3).腫瘍細胞は楕円形核と好酸性から両染性を呈する丈の高い紡錘形細胞質を有し,索状,腺房状,小血管を中心に放射状に配列していた(図 4).核分裂像は少なく,核の大小不同が散見されたが,異型性は弱い.免疫染色では Cytokeratin AE1/AE3 に一部陽性で GFAP に陰性であり, α-MSH,ACTH,プロオピオメラノコルチン,β-エンドルフィンは陽性対照として用いた馬の正常な下垂体組織と比較して十分な反応性は得られなかった.
[診断]メラニン細胞刺激ホルモン産生腺腫(馬クッシング病)
[考察]免疫染色では良好な結果を得られなかったが,HE染色組織所見と多毛症などの臨床症状から馬では典型的なメラニン細胞刺激ホルモン産生腺腫の可能性が強く疑われ,前述の組織診断名とした.本症例はいわゆる馬クッシング病といわれる病態であるが,馬の場合は犬のクッシング病とは異なり,一般的に血中 ACTH 濃度の顕著な上昇を伴わないとされている.しかし,過去の報告例や本症例のように血中 ACTH 濃度の顕著な上昇を伴う場合もあり,本症例のような血液所見を呈する場合も馬クッシング病の可能性を考慮する必要があると考えられた.(一二三達郎・三好宣彰)
[参考文献]
1) Okada, T., Yuguchi, K., Kiso, Y., Morikawa, Y., Nambo, Y., Oikawa, M. and Sasaki, F. 1997. A case of a pony with Cushing’s disease. J. Vet. Med. Sci. 59: 707-710.
2) Heinrichs, M., Baumgartner, W. and Capen, CC. 1990. Immunocytochemical demonstration of proopiomelanocortin-derived peptides in pituitary adenomas of the pars intermedia in horses. Vet. Pathol. 27: 419-425.