No.1142 イヌの頚部皮膚丘疹

摂南大学


[動物]イヌ,イタリアングレーハウンド,避妊雌,8 歳 8 ヶ月齢.
[臨床事項]内股の湿疹を抗生剤及び抗ヒスタミン剤の投与により経過観察としたが,1 週間後内股〜頚部に数 o 大の血腫〜丘疹が多数観察されるようになった.抗生剤変更,抗プラスミン剤,ステロイド剤の投与でも改善はなかった.初診より 3 週間後 1 個の丘疹を生検し,病理組織検査に供した.
[組織所見]1 個の丘疹に複数の結節が含まれ,各結節では真皮〜皮下組織に異型を示す独立円形細胞が増殖していた.腫瘍細胞と表皮や皮膚付属器に親和性はなかった.腫瘍細胞は大小の細胞質と中〜大型の類円形〜類円不整形核を有し,核内には小〜大型の明瞭な核小体,微細かつ少量のクロマチンが認められた.巨核や多核の腫瘍細胞が混在し,少数の核分裂像がみられた(図 1).真皮浅層では軽度出血がみられ,腫瘍細胞は細胞質内にしばしば赤血球を取り込んでいた(図 1;挿入図矢印).免疫染色では,腫瘍細胞は CD20(図 2), Lambda light chains(図 3), MUM-1(Multiple Myeloma Oncogene1) (図 4)陽性,CD79a 弱陽性で,CD3, Kappa light chains, Iba-1 陰性だった.超微形態検索では,腫瘍細胞は比較的豊富な細胞質を有し,細胞質には粗面小胞体が多く存在していた(図 5;矢頭).細胞質にしばしば赤血球が取り込まれ(図 5, 6;E),ときに赤血球と同じサイズの 2 次ライソゾームが観察された(図 6;矢印).リンパ球モノクロナリティ検査では B 細胞のモノクロナリティが確認された.
[診断]犬の血球貪食性皮膚リンパ腫 Canine hemophagocytic cutaneous lymphoma (血球貪食性皮膚B細胞リンパ腫 Hemophagocytic cutaneous Bcell lymphoma)
[考察]本腫瘍は,腫瘍細胞が赤血球貪食する像が特徴的であった.腫瘍細胞形態はクロマチンパターンや核周明庭が観察されず形質細胞に類似していないが,免疫染色や超微形態検索では形質細胞への分化が示唆された.形質細胞腫,Lymphoplasmacytic lymphoma,Plasmablastic lymphoma と細胞形態,免疫染色態度を比較したが,それらの所見は各腫瘍と完全に一致せず,上記診断にした.(阿野直子)
[参考文献]
1) Barger, A. M., Skowronski, M. C., MacNeill, A. L. 2012. Vet. Clin. Pathol. 41(4):587-589.
2) Ramos-Vera, J. A., Miller, M. A., Valli, V. E. O. 2007.Vet. Pathol. 44: 875-884.
3) Castillo, J. J., ReagaN, J. L. 2011. Scientific World Journal 22;(11):687-696.