[動物]イヌ, チワワ, 雄, 8 ヶ月齢.
[臨床事項]体毛が湿性であり(図 1), 皮膚は脂性で悪臭を示した. 皮膚には軽度の紅斑も認められ, 脂漏症に加えて膿皮症, またはマラセチア皮膚炎が疑われた. 病理検査のために背部皮膚の生検が行われた.
[組織所見]皮脂腺細胞の増数および皮脂腺小葉の大型化が顕著であった. 一部の皮脂腺は真皮浅層(表皮直下かつ毛包の上部)にも分布していた(図 2). ときおり, 導管内には好酸性物質が貯留しており(図 3), 導管の拡張もみられた. 導管に続く皮脂腺領域には変性した皮脂腺細胞が散見された. 皮膚表面にはマラセチア様の円型構造物が少数認められ(図 4), PAS および Gomori’s methenamin silver 染色(図 4 挿入)に陽性を示した. 正常角化性の角化亢進, 毛包内の好酸性物質の貯留, 浅層皮膚炎および水腫も認められた.
[診断]正常角化性角化亢進を伴う皮脂腺の増数 An increase in number of sebaceous glands with orthokeratotic hyperkeratosis
[考察]炎症刺激等への反応により生じる過形成 hyperplasia および二次的脂漏と区別するために, 組織診断名を「皮脂腺の増数」とした.本症例は著明な皮脂腺の増数に加えて皮脂分泌亢進症状を認めたため, 原発性脂漏の初期病変である可能性を疑った. マラセチアは脂質により増殖促進されるため, 本症例でも皮脂分泌過剰に続発してマラセチアが増殖したと考えられた.また, チワワやティーカッププードル等の小型犬種に本例と類似した皮膚疾患が散発している点について言及した.集会では, 脂漏症・脂漏性皮膚炎は, 角化異常(角化亢進, 落屑, 角栓形成)を主病変とするため本症例の所見と一致しないこと, 皮膚付属器の異形成病変 dysplastic diseases of the adnexa の一つとして皮脂腺過形成が成書に記載されていることが指摘された.(寸田 祐嗣) [参考文献] Gross,T.L. et al. 2005. pp. 161-165, 531-532. Skin Diseases of the Dog and Cat, 2nd ed. Blackwell.
|