[動物]猫,雑種,雌,3 歳.
[臨床事項]動物は室内と屋外の両方で飼育. 2014 年10 月に FVRV, FCV, FPLV, FeLV の混合ワクチン(FELINE-6;京都微生研)を接種.その1ヶ月後に左外側大腿部に可動性皮下腫瘤が触知され来院.全身の皮膚異常および体表リンパ節腫大は認められなかった. 腫瘤の外科的摘出後は経過良好.その後の混合ワクチンによる影響について,2015 年10 月接種では異常は認められなかったが,2016 年10 月接種で同様の皮下腫瘤が認められ外科的に摘出された.2017 年10 月接種では異常は認められなかった.
[肉眼所見]皮下腫瘤のサイズは 37 ×27 ×10 mm.腫瘤はやや硬度を増した弾力性を有し,割面は淡桃色,中心部は桃褐色を呈した.
[組織所見]表皮から真皮にかけて著変なし(図 1, scale bar 100 μm).皮下脂肪織に多数の小結節病変からなる円盤状病変が認められ,中心部はフィブリン析出を伴う液状化した壊死巣がみられる(図 2,[a;ルーぺ拡大像], scale bar 200 μm).同部位強拡大像では,類上皮細胞および多核巨細胞からなる化膿性肉芽腫病変を示し,同中心部に脂質残渣(Lipocysts)を有するものが多くみられた(図 4, scale bar 20 μm).肉芽腫結節の周囲では高度の好酸球,リンパ球,形質細胞浸潤(図 3, scale bar 10 μm)が観察された.抗酸菌染色(Fite 法)で陰性(図 5, scale bar 40 μm)の他,Grocott 染色で陰性,PAS 染色で陰性を示した.抗 Mycobacterium tuberculosis 抗体(Rabbit polyclonal Abs, GeneTex;班目広郎博士提供)で類上皮細胞が弱陽性を示した(図 6, scale bar 40 μm).
[診断]猫の注射後脂肪織炎(Postinjection panniculitis in cat)
[考察]本症例については臨床兆候と病理組織像から「注射後脂肪織炎」と診断した. 注射後脂肪織炎と同様の組織像を呈するミコバクテリウム感染症について鑑別を行った. Fite 法,Grocott 染色,PAS 染色に陰性を示したが,抗 Mycobacterium tuberculosis 抗体を用いた免疫組織化学的染色(免染)に弱陽性を示した. そこで,分子レベルでの検出を試みたところ,Western blotting 法並びにゲノム抽出後のダイレクト PCR 法において特異的バンドは検出されなかった. 免染結果は抗体の交差反応による影響と示唆されたが,ミコバクテリウム由来成分との関連性について明らかにすることはできなかった. 追記;二度目の肉芽腫病変では,結節周囲に好酸球浸潤はなく,リンパ球,形質細胞浸潤が顕著にみられた.このことから好酸球浸潤は本症例の特徴ではないことが示唆された.(塚田晃三)
[参考文献] 1) Park EJ, et al. Histological changes after treatment for localized fat deposits with phosphatidylcholine and sodium deoxycholate. J Cosmet Dermatol. 2013 12:240-243. 2) Gross, TL, et al.: Skin Diseases of the Dog and Cat: Clinical and Histopathologic Diagnosis, pp. 283-287 and pp. 541-543. Blackwell Science, Oxford, United Kingdom, 2005.
3) Hendrick MJ, Dunagan CA. Focal necrotizing granulomatous panniculitis associated with subcutaneous injection of rabies vaccine in cats and dogs: 10 cases (1988-1989). J Am Vet Med Assoc. 1991 198:304-305.
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