No.1145 ニワトリの心臓

日生研


[動物]ニワトリ,ボリスブラウン,181 日齢.
[臨床事項]ある農場で臨床症状を示さず健康状態が良好に見える個体の突然死が散発した.症例の鶏舎では,雛の導入から 181 日齢までの減耗率は通常レベルであった.
[剖検所見]現場獣医師による剖検では,心尖部鈍化を伴う心臓の腫大,脾臓の高度腫大,肝臓の腫大・褪色が観察された.固定後の心臓割面では,黄白色ないし褪色の帯状領域が右心室壁ならびに左心室壁と心室中隔の移行部に観察された.
[組織所見]左心室壁内側から心室中隔にかけて多数の球菌集塊からなる細菌塞栓により心筋線維の過収縮帯形成と凝固壊死した急性心筋梗塞巣がみられ,梗塞巣辺縁には好中球浸潤の顕著な分界線を形成していた(図 1).左心室壁外側から心室中隔および右心室壁にかけては心筋線維の壊死・脱落,マクロファージを主体とした炎症細胞浸潤(図 2)および軽度の線維増生(図 2 挿入図,アザン染色)を示す亜急性梗塞巣がみられ,周辺には再生心筋線維と思われる多核化した大型心筋線維(図 3)が散見された.右心室壁から心室中隔への移行部では心外膜や心筋線維間に偽好酸球を主体とした炎症細胞が浸潤し,細菌塞栓と同様の球菌が混在していた.病巣部の間断連続切片では心室中隔の梗塞巣に隣接した冠状動脈分枝に異物巨細胞反応を伴った塞栓や血管炎,血管壁の破綻,冠状動脈細分枝の塞栓などが観察され,それらの管腔は末梢側でより拡張していた(図 4 〜 7,図 7 が末梢側).Troponin-T 抗体を用いた免疫染色では梗塞巣以外の残存した心筋線維および多核化した心筋線維が陽性(図 3 挿入図)を示した.また,塞栓および炎症巣内の球菌はグラム染色およびStaphylococcus aureus 抗体に陽性を示し(図 1 挿入図),パラフィン包埋切片からの抽出 DNA を用いた PCR 法では黄色ブドウ球菌に特異的な DNA 産物が得られた.
[診断]黄色ブドウ球菌感染鶏にみられた心筋線維の再生を伴う細菌塞栓性心筋梗塞および心筋炎 (Bacterial embolic myocardial infarction and myocarditis with cardiomyocyte regeneration in a chicken infected with Staphylococcus aureus.)
[考察]ニワトリの突然死については,川田らの報告がある.その報告では臨床症状を示さず突然死したニワトリの 54 例中 4 例の心臓に細菌塞栓性冠状動脈炎がみられたと記載されている.黄色ブドウ球菌感染などに起因した細菌性冠状動脈塞栓による心筋梗塞はヒトやイヌなど他の動物種でも報告されている.その発症メカニズムは,菌血症や敗血症から心内膜炎や血管炎などが生じて血栓塞栓症が誘発・促進され,心筋梗塞が発生すると考えられている.本症例も同様のメカニズムが推測された.一方,細菌性心筋炎はさまざまな動物種でみられ,原因菌としてブドウ球菌やレンサ球菌,ヒストフィルス菌,ボレリア菌などが報告されており,本症例はそれらの組織所見に類似していた.(近内将記)
[参考文献]
1) Kawada, M., Hirosawa, R., Yanai, T., Masegi, T., Ueda, K. 1994. Cardiac lesions in broilers which died without clinical signs. Avian Pathol. 23: 503-511.
2) Janus, I., Noszczyk-Nowak, A., Nowak, M., Cepiel, A., Ciaputa, R., Paslawska, U., Dziegiel, P., Jablonska, K. 2014. Myocarditis in dogs: etiology, clinical and histopathological features (11 cases: 2007-2013). Ir. Vet. J. 67: 28-36.
3)Maxie, M. G. and Robinson, W. F. 2007. Cardiovascular system. pp. 1-106. In : Jubb, Kennedy, and Palmer’s Pathology of Domestic Animals, Vol.3, 5th ed. (Maxie, M. G. ed.), Elsevier, Saunders.