[動物]ハシボソガラス,雌,1 歳未満.
[肉眼所見]左趾において痂皮に覆われた丘疹状腫瘤 (大きさ 9 x 4 x 9 o) が認められた.丘疹割面は表皮から真皮層にかけての黄白色やや充実性病巣が痂皮下に見られた. 同様の病巣は左趾 1 ヶ所に加え,右趾 2 ヶ所で見られた(合計 3 ヶ所).
[組織所見]丘疹状腫瘤において,表皮は肥厚し真皮へと伸長して認められた(図 1).表皮では有棘層を主体としたケラチノサイトの腫脹,過形成が認められ,それらの細胞質内には脂質染色陽性 (パラフィン包埋切片) の大型好酸性封入体(ボリンゲル小体,矢頭)が形成されていた(図 2).過形成の見られる表皮基底部においては, PAM 染色により基底膜が薄いながらも保持されていることが確認され,真皮への浸潤性は認められなかった.超微形態学的検索ではボリンゲル小体の部位と合致して長軸約 300 nm 程度の大型ウイルス粒子が確認された(図 3).表皮表層では痂皮形成および細菌の二次感染が認められ(図 4),真皮では単核球や偽好酸球の浸潤が見られた.
[診断]ハシボソガラスにおける皮膚鳥ポックスウイルス症
Cutaneous avian pox virus disease in a Carrion crow (Corvus corone)
[考察]鳥類のポックスウイルス感染症を引き起こすアビポックスウイルス属には種特異性の高いウイルスが多く,これまで 23 目 232 種の鳥類で報告がある.カラスにおけるポックスウイルス症は近年北海道での流行が見られている.本症例は表皮の真皮への伸長を特徴としており,部位によっては高分化型扁平上皮癌様に認められる部位も存在した.鳥類において,ポックスウイルス感染が扁平上皮癌の発症に関わるという報告もあり本症例も鑑別を要したが,基底膜が保持されていることや,核の大小不同や異型性が認められないことなどから腫瘍性病変ではなく過形成と判断した.(本郷 覚・岡本 実)
[参考文献] 1) Joshi S, Mudasir M, Sharma D, Singh R. 2012. Histopathological study of cutaneous form of Avipoxvirus infection in Jungle crow (Corvus macrorhynchos) Vet World. 5(10):628-630.
2) Tripathy DN, Schnitzlein WM, Morris PJ, Janssen DL, Zuba JK, Massey G, Atkinson CT. 2000. Characterization of poxviruses from forest birds in Hawaii. J.
Wildl Dis. 36(2):225-230.
3) Fallavena LC, Rodrigues NC, Moraes HL, Salle CT, da Silva AB, Nascimento VP, Rodrigues O.1997. Squamous cell carcinoma-like and pox lesions occurring simultaneously in chorioallantoic membranes of chicken embryos inoculated with materials from squamous cell carcinoma and pox lesions in broiler chickens. Avian Dis. 41(2):469-471.
4) Fukui D, Nakamura M, Yamaguchi T, Takenaka M, Murakami M, Yanai T, Fukushi H, Yanagida K, Bando G, Matsuno K, Nagano M, Tsubota T. 2016. An epizootic of emerging novel avian pox in Carrion Crows (Corvus corone) and Large-billed Crows (Corvus macrorhynchos) in Japan. J Wildl Dis. 52(2):230-241.
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