No.1169 ネコの大脳

麻布大学


[動物]イエネコ, 雑種, 雌, 18 歳.
[臨床症状]受診 1 年前から運動能が低下, 2 ヶ月前より「喜怒哀楽の減少」がみられた. 3 週間前から食事を食べこぼすようになり, 徐々に体重が減少. 食欲減退や流涎もみられ, 近医を受診. 受診時に非対称の瞳孔反射(右散瞳, 左縮瞳)と左半身のバランス低下がみられ, 右脳の腫瘍疑いと臨床診断された. 初診から 4 ヶ月後, 反復する右後肢の不随意運動が発現. 衰弱し, 9 ヶ月後に死亡.
[剖検所見]大脳は全体的に萎縮し, 右脳で顕著(図 1).
[組織所見]右脳前額断のルーペ拡大像において外シルビウス回が顕著に萎縮. 瀰漫性に棍棒状ミクログリアを含む細胞数の増加と高度なグリオーシスがみられ(図 2), 神経細胞変性や, 好酸性顆粒状物を含む大型の細胞(図 2: 挿入図)が観察された. 一部の神経細胞内に好酸性塊状物が存在し, 加えてゴーストタングルが散見された. 抗高リン酸化タウ(p-tau)抗体(AT 8)による免疫染色で, p-tau のび漫性高度な沈着を認めた(図 3). 細胞内の好酸性物質も p-tau であり, ニューロピルスレッドや, Glial coiled body が観察された(図 4). また大脳皮質, 海馬および中脳で広範に神経原性変化(NFT)の形成を認めた. 沈着したタウのアイソフォームは 3R , 4R であった. AT 8 と各種神経系マーカー(MAP2, Iba-1, Oig2, GFAP)の蛍光二重染色により p-tau は主に, 神経細胞(図 5)およびミクログリア/マクロファージ(図 6)に観察され, 一部でオリゴデンドログリアにも存在.
[診断]高度なグリオーシスと神経細胞およびミクログリア内の高リン酸化タウ沈着を伴うネコの神経変性症(ネコのタウオパチー,非 AD 型)
[考察]動物では,サルで Glial coiled body をもつ進行性核上性麻痺類似のタウオパチーと, ネコ科動物(チーター, ツシマヤマネコ, イエネコ)で Alzheimer's disease (AD)型のタウオパチーの報告があり, 後者で沈着する p-tau はヒト AD と同様に 3R / 4R で, NET は海馬に最も多く存在するのに対し, 本例では, 沈着 p-tau アイソフォームは AD と一致するが, NFT の分布が異なり,さらに p-tau は神経細胞およびミクログリア/マクロファージ内に沈着していることから, 非 AD 型のネコのタウオパチーと診断した.加えて 臨床的に顕著な神経症状を示した点も今までのネコの AD 型タウオパチーと異なる点であった(山ア睦美).
[参考文献]
1) Chambers J K, et al. 2015. Acta neuropathologica communications 3: 78.
2) Kiatipattanasakul W, et al. 2000. Acta Neuropathol. 100: 580-586.