[動物]イヌ,ボーダーコリー,避妊雌,37 ヵ月齢.
[臨床事項]23 ヵ月齢頃から臆病さが強くなり,27 ヶ月齢時に急性の後肢麻痺を発症した.この時,視力消失も確認された.MRI 検査では大脳,視床,小脳,脳幹の萎縮が確認された.脳脊髄液検査における抗ジステンパー抗体,抗 GFAP 抗体は陰性であった.その後,神経症状の悪化により,37 ヵ月齢で死亡した.
[肉眼所見]側脳室,中脳水道は軽度に拡張し,小脳は萎縮傾向を示していた.
[組織所見]赤核や動眼神経核などの大型の神経細胞を主体に,びまん性に神経細胞は腫大し,細胞質にはやや褐色調を帯びた好酸性の顆粒が蓄積していた(図 1).これらの変化は,脳脊髄に広く認められたが,中脳の他,後頭葉の大脳皮質,延髄で顕著となっていた.顆粒状物質の蓄積を伴う神経細胞には,核濃縮や萎縮を示すものも認められた.また,びまん性に星状膠細胞,ミクログリアの増加が認められた.好酸性の細胞質内顆粒は,PAS 反応,LFB およびズダンブラック染色に陽性を示し(図 2,ズダンブラック),蛍光顕微鏡下では自家蛍光を発した(図 3).電子顕微鏡学的には電子密度の高い層板状や指紋状の構造物が確認された(図 4).
[診断]中脳における細胞質内顆粒状色素(セロイドリポフスチン)の蓄積を伴う神経細胞の変性(ボーダーコリーの神経セロイドリポフスチン症)
[考察]神経セロイドリポフスチン症は,ライソゾーム蓄積病の 1 つで,自家蛍光を示す顆粒状色素の蓄積により引き起こされる神経変性疾患である.主に大脳皮質や小脳プルキンエ細胞などが傷害され,脳の萎縮を引き起こす.本症例では,臨床経過が長かったことから,大脳や小脳では神経細胞の変性や脱落が進行し,残存した中脳や延髄の神経細胞でセロイドリポフスチンの蓄積が顕著となったと考えられた.本疾患は常染色体劣性遺伝を示す遺伝性疾患であり,ボーダーコリーでは CLN5 遺伝子のエクソン4 におけるナンセンス変異(c619C>T)が確認されている.本症例においても遺伝子変異が確認されたが,同腹子などにおける発生状況は不明である.近年,ボーダーコリーの神経セロイドリポフスチン症の発生は減少傾向にあるが,行動異常や神経症状を示す若齢のボーダーコリーについては,引き続き,本疾患を鑑別診断として考慮する必要がある.(西村麻紀・賀川由美子)
[参考文献] 1) Jolly, R. D. et al. 1994. Journal of Small Animal Practice, 35(6), 299-306.
2) Koie H et al. 2004. J Vet Med Sci. 66(11):1453-6.
3) Mizukami, K. et al. 2012. The Scientific World Journal. 383174.
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