[動物]ハクトウワシ,幼鳥(推定 1 歳未満),雌,体重 2.7 Kg.
[臨床事項]この鳥は展示施設内で弛緩性麻痺,頭部痙攣等の神経症状を呈し,羽毛が濡れた状態で発見された.ボツリヌス症が疑われたため,抗生剤により治療するも斃死したため,ルイジアナ動物疾病診断検査所にて剖検に供された.
[剖検所見]全身は削痩,羽毛は濡れ,初列風切羽は左右ともに絡まり脱羽もみられた(図 1).心筋は多巣性に淡褐色を呈していた(図 2).気嚢には針頭大~最大径 7 cmの白色~黄褐色結節が複数認められ,同様の結節は肺,肝臓,腎臓にもみられた.神経系を含む他臓器では肉眼的に著変は認められなかった.
[組織所見]心臓組織では,多巣性~融合性に心筋の変性・壊死を伴う炎症が認められ,病変部ではリンパ球や形質細胞を主体とした炎症細胞が浸潤していた.心筋線維は横紋の消失や筋形質の好酸化,核の濃縮を伴って,変性・壊死・断片化していた(図 3).炎症細胞浸潤は心外膜や心内膜でもみられた.加えて,筋線維内では直径約 20~60 μm の原虫シストも散見された.他の臓器では,脳においてリンパ球形質細胞性髄膜脳炎が認められた.気嚢や肺などで観察された結節性病変は肉芽腫であった.抗 West Nile Virus (WNV)抗体を用いた免疫染色では,心臓組織において心筋線維や浸潤するマクロファージ(図 4),大脳組織において神経細胞やグリア細胞に陽性像が認められた.心臓と大脳組織を用いた PCR 検査では WNV が検出された.気嚢の肉芽腫からは大腸菌が培養された.
[診断]病理組織学的診断名:中等度,多巣性~融合性,リンパ球形質細胞性心筋炎,心筋壊死を伴う散在性,心筋内における原虫シスト(Sarcocystis spp.)
疾病診断名: WNV 性心筋炎
[考察]WNV は Flavivirus Flaviviridae のウイルスで,アフリカ,中東,ヨーロッパ,北米,西アジアで発生している.自然界では鳥と蚊の感染サイクルで維持され,主に蚊が媒介することにより人や馬などの哺乳類,鳥類,爬虫類に感染する.鳥類では病原体-宿主の反応は様々で,カラス科では致死率が高く,100 % ととなる種もいる.ハクトウワシを含む猛禽類も種により感受性は様々だが,過去の報告では 18 例のワシで WNV 感染症が報告されており,いずれも 1 歳未満であった.本症例も 1 歳未満と推定される.また,慢性大腸菌感染があり,その後に WNV 感染症を発症したと考えられる.(小嶺美紗,若松伸子)
[参考文献] 1)Wünschmann A, et al. Clinical, pathological, and immunohistochemical findings in bald eagles (Haliaeetus leucocephalus) and golden eagles (Aquila chrysaetos) naturally infected with West Nile virus. J Vet Diagn Invest. 2014
|