No. 1176 ニワトリの胸腺

日生研


[動物]ニワトリ,レイヤー,30 日齢.
[臨床事項]1 鶏舎当たり 2 〜 4 万羽飼育のある養鶏場で,24 日齢頃から元気消失してうずくまり,死亡する鶏が 9 月初旬頃から徐々に増加した.25 日齢から 30 日齢までの合計死亡率は約 0.5% であった.鶏群には 14 日齢で IB と ND,22 日齢で IBD のワクチンが接種されていた.提出例は病性鑑定のために当所に搬入された病鶏 5 羽のうちの 1 例である.
[肉眼所見]腹腔内に凝血塊の貯留,肝臓,腎臓,肺および骨格筋の点状出血,胸腺およびファブリキウス嚢の萎縮などが 5 例に共通して観察された.
[組織所見]胸腺は萎縮し,シスト様構造物の集塊が被膜下,小葉間結合組織,皮髄境界部および胸腺周囲の血管などに観察された.シスト様構造物は直径約 150〜200 μm で,好酸性均一の包膜と内部に好塩基性顆粒状のメロゾイトを容れた原虫のメガロシゾントで,メロゾイトを放出した空虚のものや血球を容れたものなども観察された(図 1).メロゾイト放出後の変性過程にあるメガロシゾントでは,多くのシゾント包膜は変形・萎縮あるいは崩壊し,シゾント包膜内側に対して異物巨細胞反応や偽好酸球およびマクロファージの浸潤とそれらによるメロゾイトの貪食などが観察された(図 2).変性が進行したシゾント集塊周囲には,多数の異物巨細胞反応,マクロファージ浸潤および線維芽細胞増生などを特徴とした重度の肉芽腫性炎症が見られ,変性シゾント包膜の部分的消失を伴っていた(図 3).また,シゾント包膜が消失したと思われるような壊死を伴う肉芽組織病巣も散見された(図 4).炎症反応を伴う同様のメガロシゾント形成は胸腺周囲の脂肪組織や末梢神経・血管近傍の間質および血管内にも観察された(図 5,6).提出標本以外では,肝臓,脾臓,腎臓,肺,皮膚,骨格筋など全身諸臓器・組織に様々な程度のメガロシゾント形成や肉芽腫性炎症が確認された.提出例以外の症例にも同様のメガロシゾントが肺などの間質および血管内に多数観察され(図 7),そのパラフィン包埋切片材料から抽出した DNA を用いた PCR 法では,Leucocytozoon caulleryi のメロゾイトに特異的なミトコンドリア DNA 配列が検出された.
[診断]Leucocytozoon caulleryi のメガロシゾント形成による肉芽腫性胸腺炎 (Granulomatous thymitis due to the formation of megaloschizonts of Leucocytozoon caulleryi
[考察]鶏に病原性を示す Leucocytozoon には L. caulleryiL. sabrazesi などの 5 種類が存在するが,日本では L. caulleryi のみが報告されている.PCR 法の結果,観察されたメガロシゾントは L. caulleryi と同定され, 従来の報告と一致していた. L. caulleryi はヌカカから鶏に注入されたスポロソイトが血管内皮細胞に感染して 1 代目シゾントを形成後にメロゾイトを放出し,それらは血管内皮細胞に再感染して 2 代目シゾントを形成,2 代目シゾントは成長の過程で血管内皮細胞を破壊して血中に入り,全身諸臓器組織に運ばれて塞栓を生じ,さらに成長しながらメガロシゾントに成熟すると考えられている.提出標本に所見されるほとんどのシゾントは大きさおよび形態特徴からメガロシゾントと思われ,それらの多くは破裂してメロゾイトの放出により偽好酸球やマクロファージ,異物巨細胞などの炎症反応を伴っていた.(近内 将記)
[参考文献]
1) Hae Rim Lee., Bon-Sang Koo., Eun-Ok Jeon., Moo-Sung Han., Kyung-Cheol Min., Seung Baek Lee., Yeonji Bae., In-Pil Mo. 2016. Pathology and molecular characterization of recent Leucocytozoon caulleryi cases in layer flocks. J. Bio. Res. 30(6):517-524.
2) Olof Hellgren., Jonas Waldenstrom., Staffan Bensch. 2004. A new PCR assay for simultaneous studies of Leucocytozoon, Plasmodium, and Haemoproteus from avian blood. J. Parasitol. 90(4):797-802.
3) Tsutomu Morii. 1992. A review of Leucocytozoon caulleryi infection in chickens. J. Protozool. Res. 2:128-133.