No.1179 イヌの口腔内腫瘤

岩手大学


[動物]イヌ,ラブラドールレトリーバー,雌,10 歳.
[臨床事項]硬口蓋から軟口蓋にかけて潰瘍を伴う腫瘤が認められたため,摘出手術が実施された.腫瘤は口蓋骨を融解し鼻腔に達していた.その後,腫瘍の再発が確認され,計 3 回の摘出手術を行った.提出標本は 2 回目に摘出された腫瘍である.
[剖検所見]腫瘤は分葉状で脆く崩れやすかった.固定後の組織は灰白色充実性で一部褐色調を帯びていた.
[組織所見]摘出組織は円形〜短紡錘形の細胞のシート状〜束状増殖から構成され,しばしば肥満細胞が混在していた(図 1).免役染色では腫瘍細胞は Vimentin,c-kit (CD117)(図 3),HMB45(図 4),NSE に陽性を示した.混在していた肥満細胞は c-kit(CD117)に強陽性を示し(図 3),細胞質内顆粒はトルイジン青染色でメタクロマジーを示した(図 2).また,電子顕微鏡では腫瘍細胞の細胞質内にメラニン様顆粒が認められた.
[診断]口腔(粘膜原発)の無色素性黒色腫 Oral amelanotic melanoma
[考察]犬の口腔粘膜原発のメラノーマでは c-kit の有無が予後因子となることが示唆されている.この根拠に c-kit 陽性例は陰性例よりも長く生存し,悪性度の高いメラノーマでは c-kit 遺伝子のダウンレギュレーションが起きていることがあげられている.本症例は再発を繰り返したものの,転移はなく 140 日以上生存しているため,この成績を支持するものと思われる.一方,侵襲型のメラノーマでは肥満細胞が高密度に浸潤することが報告されている.しかしながら,本症例の生存期間が比較的長いことを考慮すると,c-kit の方が予後の指標として有用と思われる.(西浦 颯・落合謙爾)
[参考文献]
1) Newman SJ,et al.C-kit expression in canine mucosal melanoma.Vet Pathol 2012;49:760-765.
2) Duncan LM,et al.Increased mast cell density in invasive melanoma.Cutan Pathol 1998;25:11-15.