No.1182 ウシの肝臓

山口大学


[動物]ウシ,黒毛和種,雌,22 日齢.
[臨床事項]出生後より発育が悪く心雑音が聴取されたため,検査のため本学へ来院した.初診時の体温は 40.1℃ でチアノーゼを呈していた.また,I音とII 音の間に心雑音が聴取され,エコーにて心室中隔欠損が確認された.抗生剤と NSAIDs により加療していたが,5 日後に体調が急変し斃死した.
[剖検所見]肝臓はやや硬度が増していた以外に肉眼的に著変は認められなかった.肝臓以外の臓器では,心臓において心室中隔欠損,両大動脈右室起始,肺動脈の狭小化が認められ,肺の退縮不良,気管内での少量の泡沫状物の貯留も認められた.
[組織所見]肝細胞の細胞質内には大型でスリガラス状の淡好酸性封入体の形成が見られ,これにより肝細胞はびまん性に膨化していた(図 1).これら封入体は PAS 染色で陰性を呈し(図 2),免疫染色では抗フィブリノゲン抗体で陽性(図 3),抗体α1 アンチトリプシン抗体では陰性(図 4)であった.
[診断]フィブリノゲン封入体形成を特徴とする肝変性.
[考察]ウシで肝細胞におけるスリガラス状封入体の形成を特徴とする病変として,フィブリノゲンを含む様々な血清タンパクが封入体へ蓄積する病変(第 44 回獣医病理学研修会, No. 868),フィブリノゲンのみが蓄積する病変(第 42 回獣医病理学研修会, No. 820)が報告されている.本症例で見られた封入体はフィブリノゲン陽性,α1 アンチトリプシン陰性であり,後者のようなフィブリノゲン封入体と考えられる.フィブリノゲン封入体の形成を伴う疾患は,ヒトでは fibrinogen storage disease と記載されており,フィブリノゲンγ鎖(FGG)遺伝子の C 末端領域をコードする部分の変異によって家族性に発生することが知られている.本症例の FGG 遺伝子でもアミノ酸置換を伴う変異が同定されたが,この変異が病因であるかの確定には症例の蓄積を待つ必要がある.(坂井 祐介)
[参考文献]
1) Zhang M. H. et al. BMC Gastroenterol. 2016; 16: 92.
2) Yamada M. et al., J Comp Pathol. 2002 Feb-Apr;126(2-3):95-9.