[動物]牛,黒毛和種,雄,4 カ月齢.
[臨床症状]黒毛和牛(成牛 60 頭,育成 16 頭,哺育 20 頭)を飼養する農場で,4 カ月齢の子牛が発熱,黄疸を呈し,翌日斃死した.同時期に本例を含め 2 〜 5 カ月齢の子牛 7 頭が同様の症状を呈して死亡した.
[剖検所見]皮下組織や腹膜,肝臓の退色・黄色化(図 1),腎臓の暗赤色化,膀胱内の血色尿が観察された.
[組織所見]肝臓は小葉間結合組織の拡張により小葉構造が明瞭であった(図 2).肝小葉内において,肝細胞はびまん性に空胞変性及び凝固壊死を呈し,肝細胞索の配列は不整で,軽度の好中球増数を伴っていた.肝細胞壊死は,小葉中心性壊死の傾向を示す部位と孤在性または小巣状にランダムに分布する部位が認められた.中心静脈周囲とグリソン鞘(図 3)には,HE 染色で淡褐色を呈する顆粒を多量に含む多数のマクロファージが浸潤していた.これらのマクロファージの細胞質内顆粒はシュモール,PAS,ルクソールファスト青及びロダニン染色に陽性,オイルレッド O 陰性を示し,同様の顆粒は一部のクッパー細胞や肝細胞にも少量認められた.ベルリン青陽性のヘモジデリンはごく一部のマクロファージに少量検出された.中心静脈周囲とグリソン鞘には,筋線維芽細胞増殖や膠原線維形成が認められ,グリソン鞘では胆管増殖と水腫を伴っていた.筋線維芽細胞は免疫染色で細胞質が α-smooth muscle actin 陽性を示し,核と細胞体は大型化していた.透過型電子顕微鏡観察で,マクロファージの細胞質は高電子密度の塊状物や生体膜様物から成る小体で満たされていた(図 4,bar = 2 μm).
[診断]色素顆粒含有マクロファージ,胆管過形成及び線維化を伴うびまん性肝細胞空胞変性・壊死
[考察]本例は,高濃度の銅が肝臓や腎臓,血清から原子吸光法で検出されたこと,並びに,上記の肝臓病変及びヘモグロビン尿性腎症が認められたことから,過剰な銅摂取による慢性銅中毒の病態にあったと考えられた.肝細胞変性・壊死に反応したマクロファージがグリソン鞘および中心静脈周囲に浸潤し,それらの部位の線維芽細胞等が筋線維芽細胞に形質転換し,膠原線維等の細胞外マトリックスを形成したと考えれた.本例の肝臓から細菌は分離されず,銅以外に一次的な要因は同定されなかった.マクロファージの細胞質内顆粒は銅を含む二次リソソームの残余小体が集積したものと考えられた.(谷村信彦)
[参考文献] 1) Brown, D. L. et al. 2017. Hepatobiliary system and exocrine pancreas. pp.412-470. In: Pathologic Basis of Veterinary Disease, 6th ed. (Zachary, J. F. ed.), Elsevier.
2) Cullen, J. M. and Stalker, M. J. 2016. Liver and biliary system. pp.258-352. In: Jubb, Kennedy, and Palmer’s Pathology of Domestic Animals, Vol.2, 6th ed. (Maxie, M. G. ed.), Elsevier.
3) Klasing, K. C. et al. 2005. Copper. pp.134-153. In: Mineral Tolerance of Animals, 2nd ed. (Committee on Minerals and Toxic Substances in Diets and Water for Animals), National Academies Press.
4) Thompson, L. J. 2007. Copper. pp.427-429. In: Veterinary Toxicology, Basic and Clinical Principles, 1st ed. (Gupta, R. C. ed.), Academic Press.
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