No. 1188 ラットの耳介腫瘤

(一財)残留農薬研究所


[動物]ラット,Wistar Hannover 系 [BrlHan:WIST@Jcl (GALAS)],雌,110 週齢.
[臨床症状]症例は,2 年間発がん性試験の被験物質投与群の動物で,投与65 週時に左耳介に5 mmの大きさの腫瘤が発見された.当症例には腫瘤以外に一般状態の異常は認められなかった.
[剖検所見]腫瘤は皮膚に覆われ骨様硬で,剖検時には15 mmの大きさに達していた.その他,下垂体腫瘤,脾臓の腫大が認められた.
[組織所見]腫瘤は大部分を骨形成部位(写真1)が占め,この骨形成部位と離れて肉腫様部位(写真2,矢印,*:骨形成部位),粘液肉腫様部位,粘液腫様部位といった腫瘍性細胞増殖部位が認められた.骨形成部位は緻密な充実性の骨梁で構成され,細胞は異型性に乏しく,クロマチンに富み小型であった.一方,各種腫瘍性細胞増殖部位は,細胞密度に差はあったが,いずれも異型性に富む細胞で構成され,多極分裂も含め多数の核分裂像や稀に類骨も認められた(写真3,矢印).また,複数の切片の観察から,独立して存在するようにみえた各種腫瘍性細胞増殖部位の細胞がそれら周囲組織の細胞と入り混じること,緻密骨主体の骨形成部位には一部に骨梁が乏しく細胞密度の高い部位が存在することが判明した.更に,新たに切り出した別部位は,腫瘍性異型細胞で占められ,骨形成部位と密に接し類骨形成も観察された.骨芽細胞のマーカーであるosterix 陽性細胞は,骨形成部位は勿論のこと,各種腫瘍性細胞増殖部位にも散見され,粘液肉腫様部位では特に多数観察された(写真4).耳介軟骨には骨化生を伴う軽度な耳介軟骨症が認められ,一部で骨形成部位と接していたが,大部分は正常の形態を保持していた.
[診断]骨外性骨肉腫
[考察]分布に差があるとはいえ,腫瘤中のいずれの部位にもosterix 陽性細胞が観察されること,新たに切り出した部位では腫瘍細胞と骨形成部位との連続性や腫瘍細胞による類骨形成が認められること等も考慮し,骨形成部位,各種腫瘍性増殖部位をまとめて1種類の骨形成腫瘍とすることが適切と考えられた.ラットの耳介には部位特異的に無色素性黒色腫が発生し,黒色腫は時に骨を形成するが骨形成が主体とはならない.腫瘍を構成する細胞の異型性や異常核分裂像等から悪性と判断し,上述のように診断した.Wistar ラットには耳介軟骨症が比較的多く発生する.進行例では高度な骨化生を伴うが,当症例における耳介軟骨症の骨化生は軽度なものであった.骨のない耳介に発生したが,耳介軟骨症にみられた化生骨が発生母地と考えられた.(志賀敦史)