No.1192 犬の皮膚

日本大学


[動物]犬,MIX (チワワ×ヨーキー),雌,9 歳,体重 3 kg.
[臨床事項] 3 ヶ月前から背側を中心とする落屑,腹側を中心とする糜爛を認めた.他院にてアレルギーの診断を受け,ステロイド療法と低アレルギー食を試みたが改善なし.細菌,寄生虫感染はなし.血液化学検査では,末梢リンパ球数が 10 万/μlを超えていた.皮膚糜爛部の圧片標本で多数の小型リンパ球多を確認.一般状態は良好.体表リンパ節及び腹腔内リンパ節の腫大はなし.肺野の X 線像に著変なし.
[剖検所見]全身性,特に背側および腹側に数ミリ大の発赤,びらん,痂疲が形成(図 1).
[組織所見]真皮の浅層から中層に限局して高分化なリンパ球がびまん性に浸潤し,血管周囲性の浸潤も認められた.表皮および皮下織への浸潤はわずかに認められた.また,形質細胞や組織球も散在していた.増殖細胞の主体は小型リンパ球で時々中型が混在していた.異型度は低く,核分裂像は認められなかった(図 2).免疫染色では多くの細胞が CD3 に陽性を示したが(図 3),一部の細胞で CD79α (図 4),CD20,GranzymeB,HLA-DR,IgA,IgG,IgM,Lambda /HRP,Lambda Light Chain 抗体に陽性を示した.クローナリティー検査は骨髄,血液いずれも陰性だった.
[診断]リンパ球症
[考察]犬の皮膚リンパ球症は Affolter ら(2009)により免疫組織化学的に CD3 陽性,クローナリティー検査陽性の低悪性度 T 細胞性リンパ腫であることが提唱されている.しかし,本症例は血管からの浸潤を疑う血管周囲性の集簇,また免疫染色及びクローナリティ―検査より非腫瘍性の増殖と考えられ,犬の皮膚リンパ球症とは異なる病変と考えられた.患畜は抗ステロイド療法で皮膚病変が改善していることから,本症例の病因は不明であるが,免疫介在性疾患,アレルギーあるいは前癌病変などの可能性が示唆された.本症例は Affolter らの提唱する皮膚リンパ球症,また皮膚リンパ腫との類症鑑別として重要な症例であると考えられた.(山本成実,渋谷久)
[参考文献]
1) Affolter VK, Gross TL, Moore PF; Indolent cutaneous T-cell Lymphoma presenting as cutaneous lymphocytosis in dogs; Vet Dermal: 20: 577-85(2009)
2) Morisson WB(丸尾 幸嗣監訳); 犬と猫のリンパ腫 診断と治療のための総合指針, 第一版, 110-119, 株式会社インターズー, 東京(2006)